朝鮮総連が、630億円返還訴訟で敗訴した場合、仮執行で中央本部の明け渡しを求められるのを防ぐため、元公安調査庁長官・緒方某、元日弁連会長・土屋某らが共謀し、偽装売買契約を結んだ問題で、日本の法曹エリートたちの歪んだ道徳観念、倒錯した精神構造が、改めて浮き彫りになった。
記者会見でも悪びれず開き直っていたあたり、二人とも、さすが「長」に成り上がっただけのことはある。
ものおじしない悪徳弁護士を雇いたい闇勢力、反社会的団体の間で、一段と評価を上げたことだろう。
二人の発言の中で、一点、「総連は大使館、領事館に当たる施設だから守らなければならない」云々についてコメントしておきたい。
大使館の敷地は外国領土扱いで、受け入れ国の官憲が許可なく立ち入ることはできない。外交官にはさまざまな外交特権が認められる。
ただし、受け入れ国は、ある「外交官」が怪しげな行動を取るなど、「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」であると判断した場合、理由を告げることなく国外退去を命じることができる。
派遣国側がもつ外交特権と、受け入れ国側がもつ「理由を告げることなく国外退去にできる」という権利とは、セットで一つの原則なのである。
従って、総連を大使館扱いし、本部職員に外交特権に類するものを認めろというなら、同時に、日本政府が、怪しげな総連メンバーを自由に国外退去させることも認めなければ理屈に合わない。
今の総連幹部など、まちがいなく全員即座に「ペルソナ・ノン・グラータ」指定、国外退去だろう。
なお、下記は、総連に関して書いた旧稿である。
『諸君!』2002年2月号
特集:日本を覆う「怪しい言葉」群(22)
※ 朝鮮総連
島田洋一
朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)は、総連自身の定義によれば、「朝鮮民主主義人民共和国の海外公民団体で、在日同胞の権利擁護団体」ということである。が、実態はもちろん、こんなきれいなものではない。
朝鮮総連は、朝鮮半島北部を実効支配する高度武装勢力「朝鮮労働党」の対外工作部門「統一戦線部」の指導を受け、活動するとされている。
総連最高幹部らは、北の条件反射的賛成セレモニー機関「最高人民会議」の代議員でもあり、北の統治体系に完全に組み込まれた存在である。
労働党が描く総連活動家像は単純明快で、「すべての総連活動家らは、同胞大衆に、敬愛する将軍に対する絶対的な信念と崇拝心を植え付ける事業を最優先して展開し、彼ら全員を将軍と運命を共にする主体(チュチェ)型の海外公民、熱烈な愛国者としてさらにしっかりと備えさせ」ねばならないということになる(社説・総連結成四五周年にあたって『労働新聞』2000年5月25日)。
ここから、「民族教育」の名で行われる個人神格化事業などが出てくるわけだが、まともな神経をもった人が、ついていける世界ではない。当然ながら、世代が移るにつれ、在日朝鮮人の間で「民族学校」離れ、韓国籍への変更などが進行することとなった。
総連はまた、日本にあって「偉大な将軍の軍事優先政治を奉じる手となり足となり、将軍の提示する路線と方針をどんなことがあっても無条件で決死貫徹してゆく」使命をも与えられている(社説・金日成主席死去六周年にあたって『労働新聞』2000年7月8日)。つまり、軍拡のため日本から必要なヒト・モノ・カネをできるだけ多く持ってこい、日本における「統一事業」(工作活動)の基地になれというわけである。
ヒトの問題で最も悪辣なのは、1959年からの「帰国事業」で北に9万3000人の在日朝鮮人(および日本籍の家族)を送り込み、悲惨な境遇に陥れただけでなく、「強制収容所に入れられた。労働党に何千万円の『寄付』をすれば出してやれる」などと在日親族に対し身代金要求係まで務めてきた点である。
金正日体制が崩壊し、元・在日朝鮮人「帰国者」たちが日本に戻ってきたら、総連幹部らは軒並みリンチに遭うだろうといわれる。本来、出入国の自由という「同胞の権利擁護」のため、率先して動くべき総連幹部が、「帰国者」の自由往来実現に消極的なのも無理はない。
総連の創立以来、90才を越えてもなお議長の地位にあった韓徳銖(2001年2月21日死亡)は、1952年の論文で、金日成の指示に従わない者は、国家から制裁を受ける運命にあり、「政治保衛部と教化所の厳然たる存在は、このことを雄弁に物語っている。日本にいるからといって、反国家的行動は容認されるものではない」と恫喝を掛けている。
実際、韓徳銖は、意に添わぬ幹部らを、金日成に働きかけて北に召還させ、次々収容所に送り込んできた。総連内部の粛清に北の保衛部(秘密警察)を利用してきたわけである。
カネをめぐる問題では、最近、朝銀信組を舞台にした資金横領容疑で、総連中央常任委員らが逮捕、総連中央本部が家宅捜索された事件に見られるように、在日系金融機関や朝鮮学校の土地・建物などの共有資産が、総連により組織的に食い物にされてきた経緯がある。
総連側は、強制捜査に対し、「不当な政治的弾圧」、また北朝鮮当局も「朝鮮に対する反動的な敵対行為と総連に対する極悪卑劣な犯罪的弾圧策動」などと抗議の声を上げているが、あまりに白々しすぎて、もはや社民党・朝日新聞・野中広務氏らですら、表立っては救援の手を伸ばせない状態に陥っている。
家宅捜索当日、総連関係者の間からは、「総連中央本部は、朝日間に国交があるなら『大使館』だ。こんなことは許されない」といった声も聞かれたという。
北との「国交正常化」を急いではならない理由の一つがまさにここにある。総連本部が大使館になるとは、対日工作基地の聖域化が制度的にも完成するということに他ならない。
日朝間の怪しげなカネや物資の行き来には、多くの日本人、日本企業も絡んでいる。事情に通じた筋の話では、朝銀の預金の中には、日本人の表に出せないカネも相当含まれているという。
日朝の闇の世界をつなぐパイプ役を担ってきたのも総連であり、このルートにメスを入れることは、日本社会の安全保障・健全化にとり緊急課題である。
総連は、たとえば山口組もそうであるように、構成員やその家族にとってはありがたい組織かも知れない。が、日本社会そして在日朝鮮人の多くにとっては、総連が朝鮮労働党の忠実な傘下団体でありつづける限り、「敵対勢力」「在日同胞の搾取・抑圧機関」という性格を色濃く持たざるをえないだろう。