【正論】「敵司令部無力化能力」の保有を |
【正論】「敵司令部無力化能力」の保有を
福井県立大学教授・島田洋一
産経新聞 2022/3/8
少なくとも核ミサイルに関する限り、世界は、攻撃側が防御側を圧倒する時代に入った。
極超音速かつ変則軌道で侵入してくるミサイルの迎撃はほぼ不可能であり、飽和攻撃すなわち同時大量攻撃を掛けられた場合には絶対に不可能である。この状況下、果たして米国の大統領が、自国の壊滅も覚悟の上で日本のために核使用を決断するか。
米への全面依存成り立たぬ
バイデン氏の顔を思い浮かべるまでもなく、中国、北朝鮮、ロシアの独裁者が「それはない」と考えても不思議はないだろう。
「核抑止力は引き続き必要」と言いつつ、その力を米国に全面的に依存する日本の「政策」は常識的に見て、最早(もはや)成り立たない。
私は、同じく島国で米国と同盟関係を持つなど共通点の多い英国の「連続航行抑止」戦略を参考にすべきだと考えている。
簡単に解説しておこう。
英政府はこれを、「少なくとも1隻の核兵器装備潜水艦が、最も極端な脅威に対応するため、発見されずに常時パトロールを続ける態勢」と表現する。
「最も極端な脅威」の中身はあえて定義せず、核のみならず生物・化学兵器の使用や通常兵器による全面攻撃も含むと取れるよう曖昧さを残している。
現在、バンガード級戦略原子力潜水艦(全長約150メートル、乗員135人)4隻が、それぞれ16基のトライデントⅡミサイル(1基当たり核弾頭を3つ装備)を搭載し、単純計算で、1隻当たり最大48カ所の目標を精密誘導攻撃できる。
4隻のうち常時1隻は必ず海洋パトロールに出る態勢が維持されている。原子力が動力源のため航続距離も長く、燃料補給なしに地球を40周できる。
独裁政権に抑止力利かすには
かつては戦略爆撃機も有していた英国だが、すべて廃棄し相手の第一撃に対し残存性の高い潜水艦のみで核抑止力を確保している。
今後順次、耐用年数を迎えるバンガード級に替わり、最新装備を施したドレッドノート級(大きさはほぼ同じ)が2030年代初頭から就航予定だが、4隻体制は維持される。
特に北朝鮮や中国、ロシアのような独裁政権に抑止力を利かすには、独裁者がいる司令系統中枢に耐え難い被害を与える力を示さねばならない。
核による日本国民の大虐殺を阻止するため、相手の司令部と軍事拠点を標的にした、潜水艦数隻から成る英国型の独自抑止力を持つことがなぜ「許しがたい悪」なのか。日本の政治家は納得のいく説明をすべきだろう。
米レーガン政権の全面協力を得て、現在に至る英国の抑止態勢を整えたのはサッチャー政権(1979年発足)である。核戦略の理論家としても鳴らしたクインラン国防次官(当時)は次のように述べている。
「核問題に関し、英国の手は汚さぬようにしながら、同盟国・米国による核保護は引き続き歓迎するという立場は、何ら道徳的ではなく、安全に一段と資するものでもない」
サッチャー首相も回顧録に記している。
「核抑止の信頼性を最終的に決めるのは、ソ連が戦略的脅威をどう受け止めるかである。英国を守るために戦略核を発射する米国の意思についてソ連側がいかに疑問を抱こうとも、英国の保守党政府の発射意思に関しては疑問の抱きようがないはずだ」。
確かに「鉄の女」サッチャーについては間違いなくそう言えたろう。
独自抑止力の効用は
独自抑止力の効用は外交分野にも及び、歴代英政権の国防関係者の多くが、核をめぐるあらゆる問題で、米国が英国の意見により耳を傾け、相談するようになったと述懐している。
ロシアや中国と軍縮・軍備管理の協議を行うに当たっても、核を現に運用し、行動範囲の広い同盟国の意向は無視できないからである。
なお敵司令部を無力化できるのであれば、弾頭は別に核でなくともよい。というより、一般民衆にできるだけ被害が出ない兵器がよいに決まっている。
例えば、強磁界を生み出して電子機器を破壊する電磁パルス兵器などがそれに当たるが、少なくとも現状では、核爆発を利用しない「非核型」は「核利用型」に比べて威力が相当落ちると言われる。
最後に、日本核武装というと必ず出される反論に触れておこう。核拡散防止条約(NPT)から脱退すると原子力供給国グループ(NSG)から排除され、ウランが入手できなくなって平和利用の道が鎖(とざ)されるというものである。
しかしこれは間違いである。2008年9月、米ブッシュ政権の主導でNPT不参加の核保有国インドについて「責任ある」実績を評価し、「例外」として原子力民生協力ネットワークに参加させる旨の決定がNSG臨時総会でなされた。日本政府(民主党政権)も賛成票を投じている。
続いて国際原子力機関(IAEA)も同様の決定をした。
インドが例外とされながら日本はされないという事態は考えられない。「ウランが来なくなる」説はためにする議論に過ぎないと言えよう。(しまだ よういち)

