プーチン・インタビュー(読売 20161213) |
読売新聞
プーチン大統領と会見、4島交渉「別の問題」
2016年12月13日 23時14分
【モスクワ=花田吉雄】ロシアのプーチン大統領は15日からの日本訪問を前に、モスクワのクレムリン(大統領府)で読売新聞、日本テレビとのインタビューに応じた。
日露間の懸案である北方領土問題について、プーチン氏は国後、択捉、歯舞、色丹の4島の帰属問題を交渉の対象とする日本の立場について、「日ソ共同宣言」(1956年)の「枠を超える」と述べた。安倍首相は経済協力をテコに交渉の前進を目指すが日露の立場は隔たったままだ。
プーチン氏は大統領府の「代表の間」で約1時間20分、読売新聞東京本社の溝口烈・編集局長と日本テレビ放送網の粕谷賢之・解説委員長の質問に答えた。
安倍首相と15、16日に会談するプーチン氏は「チャンスはある。パートナー(日本)の柔軟性にかかっている」と述べ、平和条約の締結とその前提となる領土問題では日本側の譲歩が必要との考えを示した。
「共同宣言」は平和条約締結後に歯舞、色丹の2島を「引き渡す」と明記する。
日本はこの2島に国後、択捉を加えた4島の帰属問題を解決し、平和条約を締結するとの立場だ。
プーチン氏は、4島の帰属問題の提起は「共同宣言の枠を超えている。全く別の話で別の問題提起だ」と述べ、受け入れられないとの考えを強調した。
プーチン氏は安倍首相が提案した医療や極東開発など「8項目の経済協力プラン」については、平和条約を締結する「条件ではなく必要な雰囲気作り」との認識を示した。同プランで経済協力が拡大しても平和条約交渉の進展と直結するものではないとの見解を示したといえる。
プーチン氏は平和条約を締結する「条件」として日本に対し、北方領土で「共同経済活動」を行うよう求める考えを示した。ただしあくまでもロシアの主権のもとで認めると主張した。
プーチン氏はウクライナ情勢を巡り日本がロシアに経済制裁を続けていることについて、「制裁を受けたまま、どうやって経済関係をより高いレベルに発展させるのか」と述べ批判した。
安倍首相については「非常に信頼できるパートナー」と高く評価した。
インタビューは7日深夜から8日未明に行った。ロシア語での発言を和訳し、精査を重ねた。
■プーチン露大統領インタビューの詳報<上>
2016年12月13日
【山口での会談】
――今回は安倍首相の故郷の山口県で首脳会談ということだが。
私は日本に非常に大きな関心がある。日本の歴史と文化に興味がある。日本に関する自分の知識を広げて、日本に行けば楽しいと思う。そこ(山口県)にはまだ行ったことがない。安倍首相に詳しく説明していただけると信じている。
――温泉もある。
(温泉に入ることは)考えたことはないが、楽しいことだと思う。
――大統領は日本で柔道家としても非常に有名だ。
柔道は昔から日本文化の一部であり続けている。スポーツとしての意味だけではなく、哲学的な意味も含めて、柔道というスポーツが日本に生まれたのは偶然ではない。相手に対する尊敬、コーチや先輩に対する尊敬は非常に大事なもので、スポーツだけではなく、人生のほかの分野においても、人との関係にとても良い刺激を与えるものだ。
柔道は私の人生の一部で、とても大きな一部だ。私は柔道を手始めに、継続的かつ真剣にスポーツに取り組めたことがとてもうれしい。だから、日本にとても感謝している。
◆当然、我々は平和条約締結をめざす◆
――日露関係について。山口県では今年に入って4回目の首脳会談が行われる。一定の集大成、非常に重い意味を持った会談と期待感を持つが、大きな期待を抱いていいか。
【会談への期待】
首脳会談は非公式な雰囲気の中で行われれば、いつも、とても有益なものになる。我々(プーチン大統領と安倍首相)がともに取り組んでいる課題の解決を進めることができると期待を抱く理由がある。ご存じのとおり、首都はどこでも首都で、儀式的な雰囲気でとても堅苦しい。一方、地方では話し合いがしやすく交渉も行いやすい。だから、安倍首相の故郷には建設的な話ができる雰囲気があると期待している。
――今年は1956年の日ソ共同宣言の署名から60周年だ。この歴史の節目で日本国民は非常に大きな期待をしているが。
あなたは今、日ソ共同宣言の締結60年に触れた。これは国交回復60年のことで、日本とロシアとの関係はもっと深く根を下ろしている。我々には150年にわたる外交関係がある。150年以上だ。だから、60年だけでなく、もっとさかのぼって見つめなければならないと思う。そうすれば、ずっと先の未来を見通すことができるだろう。
100年以上にわたる両国関係の歴史全体を見ると、この60年、様々なことがあった。悲劇的な局面もあった。国交を回復した1956年以来、残念ながら両国間の協力において、我々の今日の希望に沿った適切な関係を築くことができる基礎はまだない。我々は世界そして極東地域におけるパートナーだが、平和条約がないため、両国の関係を多面的に進展させることができない。だから当然、我々はこの(平和)条約の締結をめざす。我々は完全な関係正常化を求めている。ロシアと日本との間に平和条約がないことは、過去から引き継がれた時代錯誤だ。時代錯誤は解消されるべきだ。しかし、どのように解消するかは難しい問題だ。
共同宣言には、両国が履行すべき、平和条約の基礎となるルールが書かれている。宣言を注意深く読むと、まず平和条約を締結し、その後、宣言が発効し、二つの島が日本に引き渡されると書いてある。どのような条件の下で引き渡されるのか、どちらの主権下に置かれるかは書かれていない。にもかかわらず文書は署名された。
署名されただけではなく、ソ連の議会であった最高会議と日本の国会によって批准された。しかし、その後、日本側はその宣言を履行しないと発表した。その後で、ソ連も、ソ連のみで一方的に履行されてはならないと発表した。2000年に、当時の日本の首相は、共同宣言に基づいた交渉に戻るよう私に呼びかけた。私は賛成した。以来、我々は対話を進めているが、日本が共同宣言の枠組みの中にとどまっているとはいえない。安倍首相と私の交渉について予測するのは時期尚早だ。もちろん前進を期待している。
◆「4島」共同宣言の枠外◆
――今度の首脳会談で平和条約の締結にまで持って行くことを、現段階で見通すことはできないのか。安倍首相はこれまで4島の帰属問題の解決を求めてきた。
【平和条約締結】
もちろん、それ(平和条約締結)をめざしている。しかし、日本のせいで交渉は中断した。そして、日本が求めたので、我々は2000年に再び共同宣言に基づき平和条約の締結をめざすことにした。共同宣言には2島(引き渡し)について書かれている。だが、(あなたは)4島の問題について言及した。共同宣言の枠を超えている。これは全く別の話で、別の問題提起だ。私はロシアの、安倍首相は日本の国益の観点から交渉する。私たちは妥協点を見いださなければならない。第2次世界大戦という20世紀の恐るべき悲劇の結果は、しかるべき国際的な文書によって確定していることを理解しなければならない。第2次世界大戦の結果として成立した国際法の基礎を崩さず、論争をどうやって解決するかはとても難しいことだ。
だから、我々の交渉の進展や結果について予測することはできない。今、我々が話していることは70年前の出来事から引き継いでいることだ。いずれにしても70年にわたり、我々は平和条約の締結問題を含めて対話を進めてきた。安倍首相の故郷を訪れる中で、この問題をどうやって解決できるか、はっきりと理解できるようになりたい。そうなればとてもうれしい。チャンスはあるか。おそらくいつもある。なければ、話し合うことは何もない。チャンスがどれくらい大きいか今は言えない。それは我々のパートナー(日本)の柔軟性にかかっている。
【ロシアへの制裁】
――日露で指導者の支持率が高く、日本では最近では2島先行返還でもいいという人の声も大きくなってきた。大統領はそれでも交渉はなかなか前に進むことができない状況だと認識しているのか。
安倍首相も私も自国での支持率はかなり高い。でも、私にその支持を乱用する権利はないと考えている。見いだすことができるどんな解決策もロシアの国益に合致しなければならない。
私は安倍首相と一緒に両国と両国民の間の信頼と友好の雰囲気作りについてよく話し合った。
その信頼を基礎として、平和条約を締結する条件について合意すべきだ。それは例えば、南クリル諸島(北方領土)における大規模な共同経済活動の結果として達成できるかもしれない。また純粋に人道的な問題を解決することによって達成できるかもしれない。例えば、南クリル諸島の旧島民がビザなしで昔の居住地を訪ね、墓参し、故郷を訪れることなどだ。それは我々が検討し一つ一つ解決する大きな問題のパッケージだ。2000年に交渉が再開された後、我々は平和条約の締結に向けた交渉を拒否したことはない。
しかし数年前、日本が一方的に交渉を中断して、我々との接触を断った。我々が日本との接触をやめたのではない。日本側が我々との接触を拒否した。これが第一だ。第二は、日本はロシアへの制裁に加わった。制裁を受けたまま、どうやって経済関係を新しいより高いレベルに発展させるのか? 私は今、日本は何ができたか、何をするべきだったかと評価したくない。それは私の仕事ではない。これは日本の指導部の仕事だ。しかし、日本が(米国との)同盟で負う義務の枠内で露日の合意がどのくらい実現できるのか、我々は見極めなければならない。
日本はどの程度、独自に物事を決められるのか。我々は何を期待できるのか。最終的にどのような結果にたどり着けるのか。それはとても難しい問題だ。我々は今すぐ最終的な合意を達成できると100%の確信を持って言えるのだろうか。わからない。これはまだ、真剣な検討が必要な問題だ。でも、我々は本当にそうした結果をめざしている。
■プーチン露大統領インタビューの詳報<中>
2016年12月13日
◆制裁を続けたまま、やる用意があるか◆
――共同経済活動が平和条約締結につながる道ではないかと我々は考えるが、どうか。
【共同経済活動】
人道的な問題の解決に関しては、安倍首相から提案があった。リマでの会談で、日本人がビザなしで、故郷である南クリル諸島を訪問できることで合意できるかと聞いてきた。私は「賛成だ。可能だ」と答えた。必要なのは両国の外務省が技術的な問題を解決することだ。政治的な障害はないと思う。それは、経済分野でも同じだ。我々はそれ(共同経済活動)の用意があるが、日本はロシアに対して制裁を続けたままで、同盟の義務を怠ることなく、やる用意があるのか。我々はその質問に答えを出すことはできない。日本だけが答えを出せる。私たちはそれを正しくはっきりと理解しなければならない。将来に向け何らかの保証が必要だ。
だから、我々は前もって、あらゆることを計算し、あらゆることで合意をしなければならない。ただ合意するのではなく、互いの義務の実現を保証する法的文書の形で、合意を確かなものにしなければならない。
――大統領はかつて平和条約締結までの道のりを柔道の試合にたとえたことがある。今は5分間の柔道の試合でどのぐらいの時点か。もう延長戦に入っているのか。
我々は交渉をしていたが、日本側が一方的に中止した。日本側の要請で、我々は再び交渉に戻った。この場合、柔道にたとえるとどのような指示が出ているのだろう。あなた方は私よりよくご存じだろう。「よし」。続けなさい、というわけで、交渉を続けることになった。
◆信頼がなければ不可能◆
――平和条約締結の交渉については、続けようという両国の意志が重なっただけで、この後の道のり、結論は見通すことができないという認識か。
【交渉の道のり】
今日、非常に多くの問題があって、様々な省庁で専門的に分析しなければならない。たとえば政治面では外務省。経済関連では経済関連の省庁。安全保障を担当している省庁のラインだ。我々は、何について合意できるのか、日本とロシアにとってどんな結果をもたらすのか、すべてを考慮し理解しなければならない。それは露日の国民が、妥協は受け入れ可能でそれぞれの国益に合致するとの結論に達するためだ。
――北方領土の問題はロシアから見ても、唯一残された国境線の問題だと認識をしている。
ロシアには領土問題は全くないと思っている。ロシアとの間に領土問題があると考えているのは日本だ。それについて我々には話し合う用意はある。
――私たちの認識では、相当程度、首脳同士の対話がある。だが、大統領の話を聞く限り、実質的な前進はまだ得られていない印象だ。
イエスでもあり、ノーでもある。前進はある。安倍首相が提案し、平和条約締結と領土問題の解決に向けて弾みをつけたようにみえる。安倍首相は何を提案したのか。信頼と協力の状況を作り出すことだ。他の方法では、平和条約締結に向けた文書に署名することは想像もできない。互いに信頼し合い、協力し合うことがなければ文書に署名するのは不可能だ。我々はこうした状況を作り出すことに同意している。安倍首相は、8項目の経済協力プランを提案し、経済協力を新たな水準に引き上げるよう提案した。安倍首相は人道的性格を持つ問題を解決する必要性にも注意を向けた。これらの問題の一つは、日本国民による南クリル諸島へのビザなし渡航の問題だ。
他の分野もある。たとえば文化交流だ。これは非常に重要だ。ほぼ毎年、日本では何らかのロシア関連のイベントが行われている。来年、我々は日本で、一連のイベントを開催する予定で、それを「ロシアの季節」と名付けたい。40以上の様々なイベントを、日本の各都市で行うことを考えている。また、我々は日本の歴史と日本そのものに敬意と関心を抱いている。日本の歴史と文化には独自性がある。ロシアでは、とても大きな関心が持たれている。
国際安全保障の分野での協力についても、話さなければならない。それも極東地域だけのことではない。大量破壊兵器の拡散による危険の増大に、不安を感じないだろうか。たとえばミサイル技術が例に挙げられる。それは世界にも地域にも一定の脅威をもたらしている。露日両国には、互いの利害に関係する明らかな共通項がある。
もし、露日両国がこれらすべての分野で協力すれば、安倍首相が述べている信頼のための条件を作り出すことができる。その条件は、平和条約の締結に向けてさらに一歩前進するためのものだ。最初にこの部分を突破しなければならない。その後で、平和条約を締結する条件について合意する必要がある。いずれも簡単な課題ではないが達成は可能だ。目的は達成できるし、課題は解決できる。
【8項目経済協力】
――大統領は8項目の経済協力プランについて、平和条約締結のための唯一の正しい道だと述べた。これを平和条約締結の条件として最も大事だと考えているのか。
これは条件ではない。必要な雰囲気作りだ。我々は中国と中国の友人たちと、国境問題について40年交渉してきた。40年だ。露中関係でも国境問題があった。しかし我々は今、露中関係を戦略的パートナーシップに位置づけている。しかも特権的な戦略的パートナーシップだ。ロシアには中国との間でかつて、これほどの信頼関係はなかった。中国は貿易・経済面での最大のパートナーだ。大規模で巨額の共同プロジェクトをいくつも実現している。我々は、国連安全保障理事会で協力しているだけではない。上海協力機構や、いまやグローバルな連合体のBRICS(新興5か国)でも協力している。現在、旧ソ連圏で我々が創設したユーラシア経済同盟について話し合いをしている。
さらに、中国の「シルクロード経済ベルト」と、我々が創設した地域機構をつなぐ用意がある。露中関係がこの20年でいかに多様で多面的になったか理解できると思う。我々は国境問題も解決した。我々は相互の譲歩、妥協に踏み出した。こうした妥協は、友好関係がなければ事実上、不可能だと思う。安倍首相の提案は、我々がめざす目標を達成するおそらく唯一の道だ。
――中国との国境画定では、中国と深い信頼関係があったということだが、日本とはその域に達していないのか。
中国との貿易額が最も大きく、通商関係をどんどん自由化している。ところが、日本は我々に経済制裁を科した。あなた方は、この違いが分かるのか、分からないのか。
日本はなぜ、ウクライナやシリアの問題を露日関係に結びつけるのか。日本には(米国との)同盟関係上、何らかの義務がある。そのことを尊重するのはやぶさかではない。我々は日本がどのくらい自由で、日本がどこまで踏み出す用意があるのか理解しなければならない。日本がどこまで踏み出すかを明らかにすることが必要だ。これは二義的な問題ではない。これが露日関係と露中関係の違いだ。対比しようとしているのではない。あなた方が質問されたので答えたのだ。問題は信頼の雰囲気を作り出すことだ。
【共同活動の中身】
――北方領土での共同経済活動について、どんなイメージを持っているのか。
第一に、広い意味で貿易・経済関係を改善する必要がある。この2年間で残念ながら、露日間の貿易は落ち込んだ。以前の水準を回復するため、さらに拡大し前進するため、あらゆることをしなければならない。露日両国は、パートナーになるのが当然だ。極東全域の開発に日本が参加し、日本から技術を導入することは我々の利益になる。経済協力の好例がある。たとえば自動車産業、その他の分野。農業分野には日本は積極的に進出している。ロシアのエコロジー的にクリーンな食肉に、日本が市場を開いてくれることを期待している。
露日には多くの興味深いエネルギー(協力)の方向性がある。日本で消費される石油・ガスの9%は、ロシアから輸入されている。さらに発展の展望がある。「サハリン1」「サハリン2」は活発に操業し、そこで生産される(ガスや石油の)70~75%は長期契約で日本に輸出されている。第3工場建設の計画もある。現在、(ロシア北部の)ヤマル半島に日本のパートナーが参加する計画が実現している。露日両国には活動すべきことがあるし、展望もあり規模も大きい。
南クリル諸島についていえば様々な選択肢がありうる。我々は1島でも2島でも、3島でも4島でも共同活動を検討する用意がある。重要なのは条件だ。その条件はできるだけ自由なものでなければならない。このことについては安倍首相が述べており、私も賛成だ。
――ロシアの法律の下でなのか、日本の法の下でなのか、第3の機関を作って、その法の下でなのか。大統領の考えは。
日本人は非常に創造的で頭のいい国民だと思う。いま、あなた方は、議論に対するアプローチのすばらしい例を示した。日本の主権の下、島々で経済活動を展開する問題が提起された。しかし、第一歩がそうだと第二歩は必要がないことになってしまう。問題はそれで終わりとされてしまう。我々はそういう合意はしていない。
我々は、まず政治的な性格の問題を解決し、その後、平和条約締結問題を解決することで合意した。あるいはこれらを一緒に解決しようと。しかし、単に可能性のある協力の計画を描くだけでは、我々は平和条約の締結問題、その基礎となる領土問題を解決することはできない。これは専門家による、非常に入念かつ慎重で具体的な交渉で決められるべきだ。
プーチン露大統領インタビューの詳報<下>
2016年12月13日
◆2島引き渡し 条件明記されていない◆
――大統領は日ソ共同宣言を唯一、双方で批准した法的文書だと再三強調している。一方、宣言には条約締結後に歯舞と色丹を引き渡すと明記されている。この2島の引き渡しはどういう形になるのか。
【日ソ共同宣言】
それについて話すのは時期尚早だ。あなた方は、いつも共同宣言を引き合いに出すが、日本はその履行を拒否した。もし首相が、日本政府がこの宣言に戻るというなら、我々は話し合う。もしあなた方が注意深く共同宣言をご覧になれば、9項で(2島)引き渡しについて書かれてはいるが、どちらの主権で、どんな条件で引き渡されるかは明記されていないことが分かるだろう。非常にたくさんの問題が残っている。共同宣言の枠内だけでも、まだ多くの作業が必要だ。もし日本側が共同宣言の枠を超えるなら、それはまた別のテーマだ。だが、このように厳しい旧来の問題を解決するためには、私は安倍首相に賛成で、両国間の信頼、友好、協力の雰囲気を作らなければならない。まさにそこから始めなければならないと私には思える。
――安倍首相とは多くの会談を重ね、信頼関係があると思う。歴史が用意したいい局面で、平和条約の問題を解決したいという思いはあるか。
当然、我々はそれをめざしている。なぜなら、対日関係における過去のすべての問題を解決することは利益になるからだ。我々の前進を妨げるものがあってはならない。このことはロシアの優先事項のひとつだ。我々はそれを望んでいる。だが私の任期、安倍首相の任期で何らかの期限を定めることは、プロがするべきことではない。なぜなら、我々は任期についてではなく、可能性のある合意の質についてこそ話し合うべきなのだ。以上が第一の点である。
第二に、たしかに現在のロシアの大統領と日本の首相に対する支持率はかなり高い。私は支持を乱用する権利があるとは思っていない。もちろん、私も安倍首相も、在任中に何らかの大きな成果を上げることを望んでいる。安倍首相について言えば、私は彼の立場を知っているが、できれば在任期間中にこのプロセスに終止符を打つことを望んでいる。私も、対日関係だけでなく、ほかの方面においても、たとえば内政でも経済、国際関係でも何か意義のある成果を上げたいと望んでいる。それができるかどうか、まだ分からない。
【安倍首相の評価】
――安倍首相をどう評価するか。タフネゴシエーターか、よきパートナーか。
私の印象では、安倍首相は第一に(政治家として)立派なプロフェッショナルだ。これは明らかなことだ。疑問の余地なく、自分の国を非常に愛しており、国益を守ることをめざしている。そのためにとても実務的にアプローチしている。非常に信頼できるしっかりしたパートナーで、具体的で非常に重要なものごとについて合意することができる人物だ。私は、そうした理解に基づき、これからも彼との関係を築いていくつもりだ。その中には、両国の協力関係における最も厳しく重要な問題も含まれている。
――日露関係のしめくくりに一つ聞きたい。ロシアに「静かに行くほど遠くに行く」ということわざがある。遠くに行くことを日本とロシアの関係の強化発展におくなら、前段はどういうことを想定しているのか。
このことわざは、重要なことを決める際に、急いではならないという意味だ。慎重に急がずにやれば、最良の結果、最高の質を得ることができる。目的を追求する際にさぼった方がいいと言っているわけではない。目的を追求しているふりをしろと言っているのでもない。拙速を避けて、良質な仕事をしなさいということだ。
◆対テロ 密に協力できる◆
――国際関係について聞きたい。まず、アメリカとの関係だ。トランプ氏が次期大統領に決まった。プーチン大統領はすでに電話で会談している。トランプ氏をどう思うか。
【米国との関係】
周知の事実だが、次期米大統領は露米関係の正常化に賛成の立場だ。我々としては、これを支持しないわけにはいかない。我々は当然、それに賛成で、私自身すでに、公に述べたことだが、これが簡単な課題ではないと理解している。しかし、我々は応分の努力をする用意がある。
――年次教書演説では、「我々には世界の安全保障と安定を確保する共通の責任がある」と述べた。どのような協力をする用意があるのか。
国際安全保障の分野について言えば、米国とロシアは依然として最大の核保有国だ。我々は一緒に大量破壊兵器とその運搬手段の拡散防止のために戦う用意がある。国際テロリズムとの戦いで、我々はこれまでよりずっと密に協力する用意がある。この点で、露米両国にはもちろん多くの可能性がある。仮に我々がしばらく前に協力していたならば、今日の世界が直面している多くの問題は避けられただろう。いずれにせよ、これほどひどくはならなかっただろう。たとえば、世界の多くの地域、欧州、米国、ロシアでのテロ活動や犠牲は避けられただろう。難民問題もこんなにひどくはならなかっただろう。その点は全く疑っていない。
もうひとつの分野がある。露米の経済協力だ。すでに知られていることだが、我々はロシアの大手石油会社ロスネフチの大規模な民営化を行った。ロスネフチは、カタール投資庁と大手国際投資会社グレンコアから成るコンソーシアムに自社株19・5%を売却した。また我々ははっきり知っているが、米国の企業は日本企業と同様にロシアの石油・ガス分野での協力に大きな興味を示している。これは、世界のエネルギー市場にとって、大きな意義を有しており、世界経済全体に直接影響する。
また、地域紛争の解決でも露米は非常に多くのことをなしうるし、宇宙開発分野でも平和目的での協力を続けることができるだろう。ちなみに、日本も国際宇宙ステーションの枠内で、有人宇宙飛行でかなり活発に活動している。我々には、ほかにも多くの分野があり、いずれもが両国の利益になると確信している。必要なのは善意だけであり、お互いの利益を考慮しつつ実際の作業に移らなければならない。
私の考えでは、これが必須の条件であって、次期米大統領はまさにこうした協力への用意がある。実際にどういうことになるかは、いまのところ分からない。彼の正式な就任と新政権発足を待たなければならない。我々は、よく承知しているが、近年、露米関係の発展に対し、懐疑的あるいは警戒感を持って見る人間が少なからず現れた。しかし、露米両国の深くかつ根本的な利益のために関係正常化が必要だ。
――早い時期に会うのか。
我々は、米国の現政権とも関係を発展させたかった。しかし、いくつかの根本的な分野についてはあまりうまくいかなかった。我々のせいではない。いま、近年起こった問題を並べようとは思わない。たとえば、複数の喫緊の問題を解決するうえで生じたのだが、米国はシリア問題の解決について提案を行った。しかし、突然、国連の場で、自分たちはロシアとはどんな問題についても話をするつもりはないと明言した。米国のある省は何を望んでいるのか、別の省では何をやりたがっているのか、共通の立場はあるのか理解しなければならなかった。こういうことが露米関係の非常に多くの分野で一度ならず再三起きた。
オバマ大統領が述べたことに関係する根本的な問題もある。米国は特別な国という考え方のことだ。私はこの考え方に懐疑的だ。もちろん米国は偉大な国であり、米国民は偉大な国民だ。疑問の余地はない。だれもそのことで論争はしないが、特別だということは全く余計だと思う。このことは、ロシアだけでなく(米国と)他の国との関係においても問題を引き起こすだろう。
次期大統領について言えば、彼には自分なりの考え方がある。それは極めて当然だ。彼の目指すところ、すなわち「米国を再び偉大な国にする」という考え方について、彼がどのように展開していくのか、これから理解しなければならない。露米関係の発展に問題が起きないように望む。(トランプ氏との)会談は、次期大統領が正式に就任し、政権を発足させるのを待たねばならない。そして初めて、会談について話すことができる。我々には、いつでも(会談の)用意があり、何の問題もない。現在は、新政権発足に向けた大変な時期だと思うので、我慢し待たなければならない。
◆政治的な信頼関係 非常に大きい◆
――ロシアに対する経済制裁の話があったが、米露関係の変化で影響があると期待するか。
【中国との関係】
これは露米関係だけの問題ではない。政治的な思惑による経済分野のいかなる制限も、世界経済全体にとって極めて有害だ。ゲームの統一性とルールを破壊する。つい先日、リマのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、我々はこのことについて話をした。APECに出席したアジア太平洋地域のほとんどの首脳が、異口同音に述べた。我々は、世界貿易の非常に厳しい危機のさなかにあると。危機はいくつかの国の市場における制限と関係している。これは政治的手法を利用した結果だ。経済上の制限を用いて政治的な目的を達成しようとするもので、世界経済の秩序を破壊している要因のひとつである。
その秩序は、かなりの部分、米国自身によってGATT(関税・貿易一般協定)の草創期に作られた。GATTは後に世界貿易機関(WTO)に生まれ変わった。ところがここにきて、環太平洋経済連携協定(TPP)、環大西洋貿易投資連携協定を創設しようという話が持ち上がっている。これについて、我々はWTOを回避するものではないかと懸念を抱いている。WTOの枠内では途上国と妥協することができないからだ。これは良いことだろうか。あまり良くないことだと思う。もし、世界経済が閉鎖的な経済ブロックに分かれてしまえば、経済活動と世界貿易の国際ルールについて共通理解を得て、それを適用することはかなり難しくなる。だから我々はルールは普遍的であるべきだと主張している。地域の連合体を作る場合、国際貿易機関やWTOの規範にのっとって活動すべきである。
――ロシアと中国との関係がかなり軍事的にも親密になってきている。年次教書の中でも中国、インド、日本、アメリカ。中国が一番大事な国との認識なのか。
もちろん、まったくその通りだ。ロシアにとって、中国は最大の貿易相手国だ。これが第一だ。第二に、露中には非常に大きな共同プロジェクトがある。それは原子力エネルギー、物流インフラ(社会基盤)、機械産業、貿易全般だ。航空産業でも良い共同プロジェクトがある。ヘリコプターや航空機の製造だ。我々は宇宙開発分野でも積極的に協力している。この分野でも展望は良好だ。露中間の政治的な信頼は非常に大きい。
露中では、主な国際問題について立場が近いか、意見が一致している。国際情勢の重要問題に関して共通する立場を取ることがとても多い。露中間のインフラ整備の分野でも関係が拡大し向上している。中国はボルガ川周辺を通るモスクワ―カザニを結ぶ高速鉄道の建設に参加する意向だ。我々は高速鉄道をカザフスタン、中国にも延長する計画だ。地域間協力では道路や橋が建設されている。地域間協力の規模は絶えず拡大している。だから次のように言える。中国とは真に友好的な関係が形作られた。多くの主要な分野で、誇張なしに戦略的な性格をもった関係が形成された。これを特権的な戦略性と言っている。
【尊敬する日本人】
――なぜ高い支持率を保てるのか。
それについては支持してくれる人に聞いてみるべきだ。おそらく、人々は、私が一生懸命、公明正大かつ誠実に、国にとって必要な成果の達成を目指して働いているのを見ているのだと思う。人々は、私がすべてを達成可能ではないことに気付いている。ロシア人は賢く、よく観察している。肝心なのは、できるだけ成果を上げようと心から願い頑張ることだ。ロシアがとても安全で、生活が良くなっていると(人々が)感じられるよう頑張ることだ。実際、そのように働くよう努めている。ロシア国民の支持に対し、とても感謝している。支持がなければ、仕事をするのは不可能だろうから。
――日本で尊敬する人物は。
もちろん、嘉納治五郎だ。私のところには、嘉納治五郎の肖像画が数点あるし、非常に美しい胸像もある。残念ながら、私の住んでいる公邸にある。できれば皆さんにお見せしたかった。ロシアの彫刻家による非常にすぐれた良質の作品で、意志の強さだけではなく、思慮深い善良な人柄が表現されている。
――柔道の哲学とは。
それは、私の手に負える質問ではない。柔道を本当に知っている人、柔道を愛している人が答えるべき質問だ。
――日本の訪問を間近に控える中で、日本人に伝えたいメッセージは。
申し上げたいのは、露日両国には残念ながら多くの未解決の問題がある。しかし、ロシアではすごく多くの人々が日本を知っているし、愛している。全く無条件に確信しているのだが、我々はいつの日か、必ずあらゆる問題を解決できるだろう。しかし、いつ実現するかに関係なく、すでにロシアに住む何百万という人々が、誇張なしに、日本にひかれている。日本の何百万という人々もそうだろうと思う。お互いを知り合おう、互いに協力しよう、有益な情報を交換しようという気持ち、そして未解決のすべての問題を解決しようという心からの願いがある。