「アメリカ」インタビュー 『明日への選択』2015年9月号 |
下記は、『明日への選択』2015年9月号に載った私のインタビュー記事です。ここにも転載しておきます。
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■リベラルだけではないアメリカ
島田洋一(福井県立大学教授)
中国に対する腰の定まらない姿勢、同性婚を憲法上の権利として認める最高裁判決……。オバマ大統領が率いる今のアメリカは何かリベラル一色にも見える。だが、実際はどうなのか?
―― 安倍政権が誕生して日米同盟が強化の方へ進んでいると言われていますが、アメリカという国に関して日本ではどうも一面的な情報しか流れてきていないような気がします。そこで、アメリカの実情に詳しい島田先生に、そうした実情を踏まえた上で、アメリカという国とどう付き合って行けばいいのかということをお聞きしたいと思います。
まず、オバマ大統領をどう見ておられるのか、その辺りからお話を始めていただけますか。
リベラル派ばかりのオバマ政権
島田 オバマは言われているようにリベラル派であることは間違いないんですが、ゴリゴリの左翼というより、ゴリゴリの進歩派と言うべきでしょう。
例えば、民主党内で労働組合の支持を受けている左翼議員はTPPに猛反対なんですが、オバマは進歩派なので、「自由貿易はいいことだ。世界は一つになるべきだ」という発想があり、共和党と一緒に推進しているという面がある。それから安全保障については、イラクの泥沼からは撤退したけれども、ゴリゴリの反戦平和というわけでもないので、ビンラディンの居所を捜索して殺害するといったピンポイントの作戦にはゴーサインを出すわけです。
ただ、外交・安全保障について総じて「内向き」なのは、連邦政府の財政に余裕がない云々の前に、オバマの発想の根底に、アメリカは「世界の警察官」ではなく「普通の国」である方が世界にとってもアメリカ国民にとっても望ましい、というイデオロギーがあるからです。しかも、軍事費を削って浮いた分を貧困層などへのバラマキ福祉に使おうという発想もある。
オバマ個人はそういう進歩派ですが、では、オバマの周辺にいるスタッフや関係者はどうかというと、リベラル派や左翼ばかりです。だから、オバマ政権が打ち出す政策はどうしてもリベラル色が濃いものになるし、外交も宥和的妥協的にならざるを得ない。
例えば、二〇一三年以来、中国の習近平はいわゆる「新型大国関係」、太平洋を米中で分割しようという勢力圏協定みたいなものを打ち出していますが、それに対してオバマ政権がどういう態度を示しているかというと、スーザン・ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)はこれを認めるような発言をしているし、バイデン副大統領あたりも明確にノーとは言わない。こういう妥協的な態度は、冷戦時代のデタント(緊張緩和)を彷彿とさせます。オバマ政権にはデタント的な感覚が蔓延しているのではないかと思いますね。
デタントというのは、ニクソン政権のキッシンジャー大統領補佐官(国家安全保障担当)が進めた政策です。キッシンジャーの発想では歴史的に見てソ連・共産主義が今後どんどん勢力を強めて行くのに対して、アメリカ・資本主義の方はどんどん衰退して行く運命にある。そうした中でアメリカに出来ることはソ連側が世界が支配するのを出来る限り遅らせる、もうその程度のことしか出来ないのだと。そういう斜に構えたいかにもリベラル・インテリ的な運命論に基づくのが、デタント政策だった。
―― デタントは単に軍事的な緊張関係を少し和らげるということではなかった。
島田 ええ。ところが、これを真っ向から否定したのがレーガン大統領です。レーガンは「アメリカはこれから最盛期を迎えるのだ」という独特の楽観主義でデタント政策を理念的に批判すると同時に、現実の状況に則した批判も展開しました。
当時、米ソの力関係は核戦力など正面では拮抗していて、ソ連側もアメリカの勢力圏を認めようと協調的な姿勢を演出していたのですが、実態としてはキューバを使って、ニカラグア、エルサルバドルなどアメリカの裏庭にあたる中南米地域に共産主義政権を打ち立てようと攻勢に出ていた。だからレーガンにとってデタントは米側の一方的な平和共存幻想に過ぎなかったのです。
これは今の米中関係とよく似ています。つまり、習近平は米中で太平洋を分割しようと言いながら、南シナ海や東シナ海など裏庭的な地域でガンガン攻勢に出ている。特に南シナ海では岩礁を勝手に埋め立てて人工島を造成し、軍用機が発着できる滑走路を造るなど軍事基地化を進めていますが、これは国際法違反であると同時に、アメリカの安保戦略の根幹に関わる問題です。南シナ海は米軍が中東と太平洋を行き来する枢要ルートであり、また中国の弾道ミサイル潜水艦の基地にされかねないからです。にもかかわらず、オバマ政権が口だけで有効な対処ができていないのは、やはり政権中枢部にリベラル宥和派の影響が強いからでしょう。
大統領令と司法利用
―― そのオバマ政権も、任期が残り一年数カ月。去年の中間選挙の結果、上下両院とも共和党多数となったため、政権運営が難しくなったと言われています。
島田 政権運営が難しくなり、中間選挙の前とは状況がガラリと変わりました。
例えば、オバマ政権が看板政策としてきた「オバマケア」という国民皆保険制度がありますね。これは医療保険に関する個人の選択の自由を侵し、政府統制を強めるものだとして反対の声も強かったのですが、中間選挙の前は民主党が議会を握っていたからこそ法案を通すことができた。
そこで今、オバマ政権およびリベラル勢力は、議会を通せない政策を大統領令もしくは司法判断を利用することで実現しようとしている。
例えば、六月二十六日に最高裁が同性婚を新たに憲法上の権利と認め、すべての州に認定を義務づける判定を下しました。後でまた詳しくお話しますが、あれはリベラル派の活動家らが司法を通じて事実上の憲法改正をやろうという動きの中で出された判決です。
それから、八月三日に気候変動対策として、オバマ政権は火力発電所からの二酸化炭素排出量を二〇三〇年までに三二%削減(二〇〇五年度比)する規制を打ち出しました。しかし、これは保守派が以前から、米企業の競争力が落ちるし雇用も失われると法制化に反対してきたものです。だから、オバマは、既存の環境法を拡大解釈し行政命令の形で実現を図ったわけです。
今後任期切れまでの期間は、こうした傾向が強まると予想されます。
特に司法の問題は日本とは構造がかなり違うので説明しておきますと、アメリカの最高裁は判事の定員が九名で終身制です。本人が引退表明しない限り、死ぬまで続けられる。だから、大統領が一旦任命すると、仮にその人が五十歳なら三十年程度居続けられるんです。また、最高裁判事に就任するには、大統領が指名し、それを上院が承認する必要がある。従って、大統領および上院をどちらが押さえるかによって、司法の流れも二十年、三十年のスパンで変わってくる。要するに、最高裁人事は、選挙の際、極めて重要な暗黙の争点です。
現在、最高裁判事の内訳は、リベラル派が四人、保守派が四人、中間派が一人という微妙な構成です。そのうち二人はビル・クリントン大統領が任命した強いリベラル思想の持ち主ですが、二人とも八十歳を過ぎているのでおそらくオバマの任期中に辞め、後任をオバマに選ばせるだろうと言われています。焦点は現在七十八才の最も理念的にしっかりした保守派の判事です。今、共和党の方では、次もオバマのような進歩派大統領になって、代わりにリベラル派の判事を任命されたら、"It's over."(アメリカは終わり)だと、非常に危機感を持っています。
リベラル政権永続への政治的意図
―― かなり強引にオバマ色を出して来ているということですが、何を狙っているのですか。
島田 本来の支持層に自分の業績をアピールすること、加えて民主党支持層への利益供与という極めて政治的な意図があると思います。
例えば、オバマケアがなぜ打ち出されたかというと、低所得者層・貧困層の票を獲得するためです。もともとアメリカの中間層より下の層は、福祉を重視する民主党に投票する人が多いんですが、そういう層に確実にアピールするために、富裕層および中間層を対象に増税し、それを低所得者層・貧困層に回すという所得移転のプログラムを保険の形で考えた。これがオバマケアです。
じつは、オバマ政権が移民、同性婚、黒人差別といった問題に熱心なのも、これと同じ政治的意図からです。
不法移民に関していえば、いまアメリカには、メキシコをはじめとする中南米からヒスパニック系の越境者・超過滞在者が大量にいて、その数は千二百万人以上と言われています。市民権を得た人々も、低所得層が多く家族・親族も含め福祉に頼る傾向が強いため、民主党に約七割が投票しています。仮に不法移民に順次市民権を与えていけば、半永久的に民主党政権が続くことになりかねない。だから、保守派はかなり危機感を持っていて、次期大統領選に出馬を表明している不動産王のドナルド・トランプが、共和党支持層の間で人気があるのは「不法移民は追い返せ」と非常に厳しい姿勢を示していることも理由の一つです。
―― リベラル派としては、そういうマイノリティの票を獲得して政権を長続きさせたいわけですね。
島田 ええ。オバマもその点は明確に意識していて、政治的思惑が言動に表れています。
例えば、最近サンフランシスコで不法移民が女性を殺害する事件が起きましたが、そういう時はオバマは黙っている。黒人のギャング集団が白人を殺害する事件が起きた時もオバマは黙っている。しかし黒人が白人に射殺されたとなると、事実関係が明らかになっていない段階で直ちに、人種差別を仄めかしたりする。昨年九月にミズーリ州で黒人少年が白人警官に射殺された事件が起こった時も、オバマはすぐに記者会見を開いて「人種差別が背後にある」旨コメントしました。
ちなみに、この事件の黒人少年、といっても体重一二〇キロ超の巨漢ですが、は直前にコンビニ強盗を犯しかつ警官の拳銃を奪おうとしたなど凶悪ぶりが裏付けられ、白人警官の対応は正当防衛で、差別事件ではなかったとオバマ政権の司法省が結論を下しています。
同性婚判決の背景
島田 そういう政治的思惑とともに、もう一つ重要なのは、リベラル派のイデオロギー傾向です。これについては今度の同性婚判決が恰好の例です。日本のメディアでは、あの判決はアメリカ人の「寛容の精神」が同性婚を認めたなどと伝えられましたが、そんな甘い話では決してない。背後には、非寛容な世俗原理主義者やラディカル・フェミニストらが進める、結婚制度自体を破壊しようという運動すらあります。
同性婚というと、結婚という聖なる関係性を同性愛者にも認めて欲しいという控え目な同権運動のように理解しがちですが、そして実際そうした人々もいますが、あの運動の中心的推進力となっているのは、家族制度の解体を目指す勢力です。彼らは基本的に自由恋愛、フリーセックスを謳歌し、産まれた子供はコミュニティで育てればよいという発想だから、結婚制度は否定の対象でしかない。
同性婚容認は、結婚制度をゆさぶる一手段に過ぎず、次は一夫多妻、一妻多夫など複婚容認でさらなる制度溶解を目指す。戦術的に同性婚を推進してきたが、「結婚にこだわるのは意識が遅れている証拠。好きな時、好きなように同棲すればよい」というのが彼らの本音です。いずれにせよ、結婚、家族、宗教、市場経済といった伝統的制度を掘り崩し、高福祉下の解放コミュニティで生きていきたいというのが彼らの究極の目標、ないし勝手な願望なのです。
―― 革命みたいですね。
島田 ええ。それに、日本のメディアでは「寛容の精神」などと持ち上げられていますが、伝統的な結婚観を重んじる人々に対し、極めて非寛容な攻撃が加えられるケースもあります。
例えば、あるケーキ屋がウェディングケーキの注文を受け、「ジョンとヘンリー、結婚おめでとう」とチョコレートで書いてくれと言われた。それを拒むと、「同性愛者を差別した」と公に指弾され、以後、公共施設の納入業者から外されるなど経営上大きな支障が生じた。また、孤児を里親と結び付ける、意義ある養子斡旋事業を何十年もやってきた教会系の慈善団体が、ゲイのカップルから子供を斡旋してくれと言われて、断ると「同じ正式な結婚なのに差別的な扱いをした」という理由で免許取消となる。こうした事例の頻発が懸念されています。
寛容の精神というなら、伝統的な家族や結婚の在り方を尊重する人々にも寛容に当たらねばならないはずですが、運動家たちは容赦ありません。
ちなみに、今度の最高裁判決以前に、基本的に同性婚を容認してきた州が、既に三十八州ありました。保守派の多くも、州議会が民主的に決めるなら仕方がないというスタンスです。しかし、選挙を経ない裁判官による一方的決定は「とんでもない越権行為だ」というのがまた保守派のコンセンサスでもあります。さらに全国レベルの世論調査でも、「結婚は一人の男と一人の女によるものだ」という意見の方が多いのが実情です。
伝えられないもう一つのアメリカ
―― そういうアメリカ社会の実情は、全くと言っていいほど日本には伝えられていないですね。
島田 これは古森義久さん(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)がよく言われることですが、日本のメディアのワシントン特派員は、いずれもリベラル系のワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、三大テレビネットワークといった主流メディアだけを見て記事を書くケースが多い。保守派の意見を丹念に尋ねる取材をしていない。そうなると、情報が偏るのは当然です。
アメリカのメディアは元々、圧倒的に民主党支持です。ワシントンの主流メディアの部長級以上は八割五分が民主党に投票していると言われます。だから、オバマの問題点はあまり取り上げないし、たとえ取り上げても深追いしない。主流メディアだけを情報源にしていれば、アメリカという国は随分リベラルに見えるでしょう。
しかし、国の全体状況を見ると、保守とリベラルが大体拮抗していると思います。有力な保守メディアは、テレビだとFOXニューズ、新聞ではワシントン・タイムズぐらいですが、まずアメリカには、トーク・ラジオという独特の世界があります。ここでは保守派が優勢で、そのキャスターらは徹底的にオバマ批判をしています。一番有名なのはラッシュ・リンボーというキャスターで、明確に反オバマ・反民主党・反ヒラリーの立場で論陣を張っている。草の根保守に大きな影響力のある人です。
―― その辺まで視野に入れないと、アメリカ社会の実情は分からないということですね。
島田 ええ。アメリカには保守的な考え方を支持する「草の根保守層」が岩盤のように存在します。だからこそ、去年の中間選挙では上下両院とも共和党が多数を占めた。州知事も共和党系が増え、且つ共和党多数の州議会も増えました。オバマ的な政治に対する草の根レベルの反発が強まっているのは間違いないと思います。
対中姿勢から見た次期大統領選
―― 来年十一月に予定されている大統領選挙ですが、日本のメディアではヒラリー・クリントンが最有力だと伝えられています。
島田 誰が大統領になるか、今の段階では分かりませんが、民主党ではヒラリーの失速が顕著で、党員の間に不安が広がっています。
ヒラリーの国務長官時代のメール問題、すなわちハッキング対策、将来の情報公開の両面から法律で義務づけられた公式サーバーを使わず私的サーバーで側近と機密情報をやり取りしていた問題が、もみ消し工作や説明の破綻により、ニクソンのウォーターゲート事件に似た様相を呈してきました。もっとも現副大統領のジョー・バイデンやマルクス主義者の上院議員のバーニー・サンダースなど他に出馬が取り沙汰される候補も過去の人という印象です。
―― ヒラリーが大統領になった場合の外交・安全保障政策はどうなると……。
島田 国務長官時代に、日米安保条約第五条は尖閣諸島にも適用されると明言するなど、中国が嫌がることを若干はしました。しかし、彼女は基本的にラディカル・フェミニストで、人脈も左翼偏向、オバマ政権より良くなるとは思えません。
例えば、夫のビル・クリントンが大統領の時代、CIAがガタガタになりました。クリントン夫妻の大学時代からの同志であった反CIA活動家らを幹部に登用するなどしたからです。CIAの秘密工作能力は大きく落ちたと言われます。また、クリントンは選挙戦中、ブッシュ父政権の対中政策を大いに叩き、そのため政権発足当初は中国に厳しかったんですが、経済界の支持層から「中国は大事な商売相手。穏やかな政策に改めて欲しい」と圧力を受け、その後態度が変わった。象徴的なのは最恵国待遇です。毎年中国の人権状況など見つつ更新の是非を決める形だったのを、永続とした。対中圧力カードを自ら一つ捨てた格好です。
ヒラリー政権はこうしたビル・クリントン路線の延長になるでしょう。
―― 共和党の方はどうですか。
島田 共和党エスタブリッシュメント(既存エリート層)が期待するジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は、移民流入に寛大すぎると考える人が多いことや、面白みがない演説スタイルなどが災いして支持が広がっていません。セレブ実業家のドナルド・トランプは、タブーに囚われない発言スタイルに良かれ悪しかれ話題性があり、かつ移民問題で厳しい姿勢を示している点がブッシュと対照的で、反エスタブリッシュメント層の支持をかなり集める形になっています。
私個人としては、マーコ・ルビオ(上院議員)に大いに期待しています。彼は大統領候補の中で最もレーガンに近いスタイルを持ち、カストロに迫害されたキューバ難民の家庭出身のため、中国にも厳しい姿勢です。その次はスコット・ウォーカー(ウィスコンシン州知事)で、内政に特化してきた面がありますがレーガン派のしっかりした政治家です。ルビオの場合、移民問題でブッシュに近いとされる路線をどう修正していくかがカギになるでしょう。
―― 対中政策という面では、共和党政権の方が期待できるのでしょうか。
島田 共和党も、日本の自民党同様、安倍首相的な原則重視の保守派から単なるブローカー的人物まで幅広くいます。どの勢力が主導権を握るかでしょう。
歴史的に見ても、共和党政権はソ連には厳しかったけれども、中国には明確に対決してこなかった。また、これだけ経済関係が密接になっていますから、共和党でも中国と取引する大企業から献金を貰っている議員が少なくない。もちろん、共和党政権になれば、要所要所に保守派のしっかりした人材が登用されることになるので一定の歯止めはかかると思いますが、過大な期待は禁物です。
日米同盟強化に構造的アプローチを
―― そうすると、アメリカの次期政権がどうなるにせよ、わが国は余程しっかりアメリカと向き合わないといけないということですね。
島田 その通りです。特に今、日米同盟が上手く運んでいるように見えるのは、安倍首相のリーダーシップに負うところが多い。鳩山民主党政権時代などは、日本は逆に侮蔑と憐れみの対象でした。
今日お話したように、オバマおよびその周辺はリベラル派で固められ、中国はじめ全体主義勢力に甘い。それにもかかわらず今、日米同盟が強化の方向へと向かっているのは、安倍首相が「自由・民主主義・人権・法の支配」を日米共通の価値観として確認しつつ、日本の自主的努力を示し、共和党が多数を占める上下両院の信頼感を得たことが大きい。
逆に、もし安倍首相的リーダーシップが日本から失われれば、ホワイトハウスや各省庁、議会にも、日本との同盟関係よりも中国との経済関係を重視する連中がゴロゴロいるわけですから、日米同盟はまた空洞化するかも知れません。
その意味で、中国の軍事的脅威に直面する日本にとって安倍首相の存在は僥倖ですが、中長期を睨めば、日米同盟の深化に向け、構造的にアプローチして行くことが必要だと思います。例えば、日米の保守政治家が政策スタッフ、関係シンクタンクなども含めたレベルで日常的に意見交換し、危機発生時には直ちに協力し合える枠組があれば、国務省・外務省中心の宥和・事なかれルートで事が進められる従来の在り方を修正できると思うのです。具体的には、安倍首相に近い保守派議員と米共和党の有力議員によるネットワーク作りです。予算権限などは議会が握っていますから、次期大統領が民主党・共和党いずれから出るにしても、議会に足場を確保しておくことは重要です。
日米ともに主流メディアはリベラル派主導で、そうしたルートの情報に頼っていては、日本の保守派、アメリカの保守派とも、相手の本音を正確に知り難いばかりか、常に無用の誤解を生むことになります。ささやかながら私は、以前から、アメリカの保守の本音を日本に、日本の保守の本音をアメリカに伝える努力をしてきました。さらに組織的、本格的に、保守同士の意思疎通が図られねばならないと痛感しています。(八月五日取材。文責・編集部)