これでも朝日報道の「影響はない」というのか―『明日への選択』2015年3月号インタビュー |
下記は、日本政策研究センターの月刊誌『明日への選択』2015年3月号に載った私のインタビュー記事である。ここにも転載しておく。
なお、独立検証委員会の報告書は同センターのホームページから全文ダウンロードできます。
一点、報告書88頁(私の章の最後の段落)の以下の部分ですが、1997年とあるのは2007年の誤りです。第一次安倍政権時の話ですから当然で、うっかりミスでした。事務局に訂正をお願いしています。以下が正しい文章です。
なお、米議会に慰安婦決議が上程されていた時期に書かれた、ワシントン・ポスト2007年3月18日付の記事(AP電)は、安倍首相の「強制連行なし」発言を取り上げる中で、「最大野党の代表鳩山由紀夫」の《日本は真実に向き合う勇気を持たねばならない》、《安倍は本質をあらわにし、日本を危険な方向に導いている》との発言を引いている。
日本の名誉のかかった問題で、不見識な政争に走ってきた政治家の責任についても、今後検証していかねばならないだろう。
明日への選択 2015年3月号
(編集部のリード)
朝日新聞は昨年八月五日、自社の慰安婦報道に関する検証記事を掲載し、一部の誤報を認めた。十二月二十二日には同紙から慰安婦報道の検証を委嘱された「第三者委員会」も報告書を公表した。しかし、慰安婦報道問題の真相が解明されなかった。
そこで、昨年末、これら検証記事と第三者委員会報告を踏まえ、一連の朝日の慰安婦報道の真の問題点と責任を明確化するために、民間の「独立検証委員会」が発足した。本誌は、二月十九日に報告書の公表を受け、独立検証委員会の西岡力副委員長(東京基督教大学教授)、島田洋一委員(福井県立大学教授)に話をうかがった。
朝日のプロパガンダが作った米国紙「慰安婦」報道
これでも朝日報道の「影響はない」というのか
島田洋一(福井県立大学教授)
■「強制連行」イメージを作った「軍関与」記事
―― 朝日新聞の慰安婦報道問題では、その国際的な影響が大きなポイントですが、朝日新聞の第三者委員会の報告では、委員によっても違いますが、そんなに大きな影響はないという結論になっています。
島田 第三者委員会の報告では、北岡伸一委員や岡本行夫委員はある程度影響はあったと思うと述べていますが、一方、国際的な影響を専門的に調べた林香里委員は「あまり影響がなかった」と結論づけ、結局両論併記のような形になっています。
これに対して、今回の独立検証委員会では一九八〇年以降、昨年末までの約三十五年間のニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズの米国の大手三紙を中心に調査を行いました。米国紙に力を入れたのは、慰安婦問題に限らず、今や歴史認識に関する情報戦はアメリカが主戦場になっている。またアメリカの大手紙の記事は世界に引用して拡散して行く。ですから、朝日新聞の慰安婦報道の国際的影響という点では、米国紙が朝日新聞からどのような影響を受けたかを検証することが、極めて大きなポイントになると考えたのです。
―― その調査の結果はどうだったのでしょうか。
島田 結論を先に言えば、朝日新聞の慰安婦報道はアメリカの新聞に決定的な悪影響を与えていたということです。とりわけ、一九九二年(平成四年)一月十一日、宮澤首相の訪韓直前に朝日が朝刊一面トップで掲載した「慰安所 軍関与示す資料」という記事の影響が甚大だったと言えます。
今回調べてみて分かったことですが、米国主要三紙は九二年一月以前は慰安婦関連の記事をまったく掲載していないのです。慰安婦に関連して、「性奴隷」(セックス・スレイブ)という単語が出てくるのもやはり朝日の九二年一月十一日プロパガンダ以降です。それ以前はまったくない。
具体的に言いますと、ニューヨーク・タイムズが掲載した最初の大きな記事は九二年一月十三日付。朝日新聞の「軍関与資料」記事の二日後です。日本陸軍が「慰安所」に関与していた資料が見つかったと「日本最大の新聞の一つである朝日新聞」が報じたという記事で、慰安所の「ほとんどの女性は朝鮮から強制連行され」、「強制売春への当局の関与」していたとされた。同紙は続いて一月二十七日付の記事で「一〇万から二〇万の女性が結局、誘引されるか連行された」とも書いています。
ワシントン・ポストも最初のまとまった記事は朝日の記事から五日後の一月十六日付。ここでは「慰安婦の奴隷化」という言葉を使い、そうした慰安婦計画を日本が考案・運営した事実を証明する資料が発見されたという内容です。朝日の記事の影響は明白です。同紙は一月十八日の記事でも、朝鮮人女性の「奴隷化」「強制売春」は軍による計画的行為だったと断定しています。
ロサンゼルス・タイムズは一月十五日付でまとまった記事(AP配信)を掲載し、宮澤首相の訪韓について「数万の『慰安婦』をかき集めるのに果たした軍の役割について、日本は公式の謝罪を行った」と書きました。同紙は約三カ月後の四月二十五日付で、今年初めに「有罪を立証する軍の記録」が明らかにされたとの韓国人活動家の発言を引用し、朝鮮人女性が「拉致」され、日本兵への奉仕を強要されたことを日本政府が認めたとも書いています。
ここで明らかなことは、朝日新聞が一月十一日の記事を出したことでアメリカの大手三紙は初めて慰安婦に関するまとまった記事を書いたということです。この因果関係は明確な客観的事実です。
しかも、朝日新聞が企図した方向で報じられていることも、はっきりと分かりました。今ではよく知られていることですが、朝日が記事にした「軍関与示す資料」は強制連行とは関係のない内容ですが、そこに朝日は「主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した。その人数は八万から二十万ともいわれる」という用語解説を付けた。さらに翌日の社説でも取り上げた。第三者委員会は、この「スクープ」を「首相訪韓の時期を意識し、慰安婦問題が政治課題となるように企図して記事としたことは明らか」と指摘していますが、それだけでなく「発見」されたという資料には強制連行の事実が含まれていなかったがゆえに、朝日は用語解説や社説を動員してあたかも強制連行を裏付ける資料が発見されたかのような印象操作を行ったと言うべきです。その結果、アメリカの大手三紙の記事は、朝日のプロパガンダによる煽りをストレートに反映した記事となったと言えるのです。
■もし「吉田証言」を取り消していれば
―― 朝日新聞が取り消した「吉田清治証言」報道の影響はどうでしょうか。
島田 第三者委員会は、林香里氏が分析した結果、朝日新聞が吉田証言を取り消したという昨年の記事に関するものを除けば、「吉田清治」という名前は三回しか出てこなかったと言っています。
しかし、今回の検証では、吉田の虚偽証言の影響も大きかったことが分かりました。米国の大手三紙がはっきり吉田証言を取り上げたのは一九九二年七月以降のことです。宮澤首相の謝罪を受けて政府が慰安婦問題についての調査をし、九二年七月六日にその中間的な報告を当時の加藤紘一官房長官が行っています。加藤官房長官は、慰安婦問題に日本軍が関与していたとして謝罪したのですが、同時に強制連行を示す資料はなかったとも言った。
それを受けて、アメリカの新聞、例えばワシントン・ポストは七月十日付で、強制連行がなかったというのはおかしい、吉田清治の証言があるではないかという趣旨の記事を書いています。この記事には、「吉田」という名前は出てきません。しかし、ある元日本帝国陸軍の兵士が韓国で襲撃に参加して泣き叫ぶ子供達から若い女性を引き離したと書いている。これは明らかに吉田の証言に依拠した記述ですが、名前が出てこないので、林氏の分析からは漏れ落ちているわけです。
ロサンゼルス・タイムズも河野談話の翌日、それを紹介する記事のなかで、慰安婦募集係の一人、吉田清治によれば実際に奴隷狩りが行われていたという趣旨の記述をしています。これには「吉田清治」という名前が出てきます。
つまり、アメリカのメディアは、加藤談話だとか河野談話だとかが出るたびに、それらを強制連行として意味づける材料として吉田証言を使ってきたのです。
もし、この段階で朝日新聞が吉田証言を取り消していれば、米国紙の報道はずいぶん違ったものになった可能性が高い。この大手三紙は、慰安婦問題に関しては朝日新聞をいつも引用しているわけですから、もし朝日新聞が吉田証言報道を取り消していれば、そうした記事は書けなかったのではないでしょうか。
ちなみに、ニューヨーク・タイムズは九二年八月八日付でサンガーという記者が吉田清治にインタビューして記事を書いているのですが、この記事は秦郁彦氏の反論なども紹介していて朝日新聞よりもずっとバランスが取れています。アメリカの新聞の方がまだましだと感じました。
■米紙はあくまで「強制連行」説
―― そうすると、林香里氏がいうように「あまり影響がなかった」「限定的」などとはとても言えませんね。
島田 朝日新聞の影響は明らかです。付け加えれば、加藤談話が出たときに朝日新聞は強制連行の資料がないなどという姑息ないいわけをするなという趣旨の社説を書いたのですが、九二年七月六日付のワシントン・ポストは、その朝日の社説を引用し、関与は認めても強制は認めたくないという態度はやめるべきだと朝日新聞は主張していると書いている。朝日の社説に影響されていることは明らかです。
要するに、九二年一月十一日の朝日新聞記事、つまり「九二年一月プロパガンダ」によってアメリカのメディアのなかに「強制連行」イメージが出来上がってしまい、それがどんどん拡大再生産されてきた。これが今回の検証の結論です。
ちなみ、ワシントンで慰安婦問題で反日キャンペーンの先頭に立ってきた「ワシントン慰安婦問題連合」のホームページには重要事項年表が掲げられていて、九二年一月の朝日の記事が掲げられています。いわば、反日団体の運動に朝日が寄与したことを当の反日団体が認めているのです。
―― ところが、朝日新聞はいま、慰安婦問題は強制連行が問題ではない。女性の尊厳の問題、つまりは人権問題として捉えるべきだと主張しています。米国紙も同様の論調なのでしょうか。
島田 安倍首相や日本の保守派は強制連行がなかったことにこだわっているけれども、欧米のメディアはそんな低い次元の議論ではなくて、女性の人権一般として米軍や韓国軍の問題と同次元で捉えようとしているのだとか言う人たちがいます。しかし、今回、米国の大手三紙の三十数年分の記事を読んでみると、そんな論調で書かれた慰安婦関連記事はありませんでした。
慰安婦問題と米軍のケースを併せて取り上げた記事はありますが、慰安婦は強制連行でレイプ、米軍の場合などは売春。しかし、売春だから許されるものではないという論調です。つまり、日本の慰安婦は女性の尊厳といった次元の問題ではなく、強制連行・レイプだから、これはボスニア紛争で問題となった民族浄化などと同じ次元の問題だという認識です。女性学が専門という大学教授の寄稿もありますが、そこでは米軍の「売春」を批判する一方、慰安婦は「徴用」された「性奴隷」だと規定しています。あくまでも日本の慰安婦問題は別なのです。
■質の悪い第三者委員会報告書
―― そうした今回の検証結果からすれば、第三者委員会が国際的な影響について出した結論は間違っているということになりますね。
島田 第三者委員会で国際的影響を調査した林香里氏は、海外紙のデータベースで慰安婦とか吉田清治といったキーワードが使われている回数を調べる「定量的な方法」によって調査し、慰安婦に関する海外メディアの報道では日本からの発信のプレゼンスが相対的に大きい。また、日本からの発信の中でも朝日新聞のプレゼンスが相対的に大きいと述べています。
これが彼女の言う「定量的な方法」の結論で、そうであれば朝日新聞の影響が大きいということになると思うのですが、ところが、林氏はそうした分析結果には限界があるとして、海外の有識者の意見というものを加えて結論を出している。朝日報道の国際的影響は「限定的」だと。
では、海外の有識者とはどんな人たちかというと、そこには韓国の挺対協の代表、一般的に反日活動家とされる米国人女性、歴史問題では偏向した言動が指摘される韓国専門家なども含まれています。彼らとは反対の立場の人物は入っていません。また、報告書にはその有識者の発言はピックアップして掲げられ、誰がどの発言をしたのか記されてもいない。さらに有識者にインタビューしたのが「朝日新聞の取材網」というのですから、朝日新聞に有利なバイアスがかかっていると考えても不自然ではありません。
そうした有識者の意見というものを総括して林氏はこう言うのです。日本のイメージを傷付けたのは強制連行のイメージではなく、「日本の保守政治家や有識者たちがこの『強制性』の中身にこだわったり、河野談話について疑義を呈するような行動をとったりすることの方が日本のイメージ低下につながると話している」と。
―― つまり、悪いのは朝日新聞ではなく、安倍首相や保守派の方だと……。
島田 林氏だけでなく、第三者委員会の波多野澄雄委員も同様に、安倍首相を筆頭とする保守派が吉田証言で誤解が広まっているから取り消せと騒いだ。その結果、逆に日本のイメージを悪くしたという意味のことを言っています。
いずれにしても、第三者委員会の国際的影響に関する報告は、林氏の定量的な方法と全然関係ない結論になっている。そこに論理性は見られない。その意味で、実に質の悪い報告書だと言えます。
■検証すべき外務省、政治家の責任
島田 今回の調査で、朝日新聞が「九二年プロパガンダ」で、慰安婦問題に火をつけたということが今回明らかになったわけですが、それと同時に、外務省や政治家の責任も大きいことがはっきりしたと思います。
宮澤首相が九二年一月に韓国で根拠もなく謝罪してしまった。それは「九二年プロパガンダ」が事実であることを政府が認めたかのような印象を米国紙に与えた。ロサンゼルス・タイムズとワシントン・ポストは、宮澤首相が訪韓して強制連行に関して謝ったと書いています。朝日が煽り、無責任な政治家が謝罪ありきの対応をし、誤解を世界に拡大するというパターンです。河野談話に関しては、米国紙が三紙ともに強制連行していたことを日本政府が認めたという趣旨の報道をしています。ですから、河野談話がアメリカを中心に海外に間違ったイメージを広めたということも否定できない事実だと思います。
朝日新聞の責任と同時に、まず謝罪ありきの対応をした政治家、そして外務省の責任も検証すべきです。(文責・編集部)

