米国での対北朝鮮重要会議と日本の不参加 |
下記は、国基研ろんだんに寄せた一文です。ここにも転載しておきます。
■米国での対北朝鮮重要会議と日本の不参加
島田洋一(福井県立大学教授)
アメリカの首都ワシントンは、国際情報戦の主戦場、少なくともその最も重要な一つである。
2015年2月17日、そのワシントンの大手シンクタンク「戦略国際研究センター(CSIS)」において、「北朝鮮の人権 今後の進路」と題する、ほぼ終日に及ぶ一大シンポジウムが開催された。副題は、「国連調査委員会報告書1周年記念」。同報告書で北の政権を厳しく指弾したマイケル・カービー委員長以下3人の国連特別報告者も顔を揃え、米韓の専門家など30人が報告・討議を行ったという。日本人拉致問題も取り上げられた。
ところが、呆れるような状況があった。その場にいたジャーナリストの古森義久氏は次のように報告する。
《問題は日本の存在感がまったくなかったことである。この会議において、わが日本は声も姿もまったく表わさなかった。日本人拉致という、日本の国家にとっても国民にとっても重大な意味を持つ課題が論じられる国際的な会議であるにもかかわらず、日本国代表が1人もいないのである。
この責任は、やはりワシントンの日本国大使館にある。日本国大使館は会議の場となったCSISから徒歩で10分ほどの至近距離にある。会議が開かれることはずっと以前から分かっていた。しかし、日本の声をそこに届ける措置はなにも取っていないのである。……日本の考えや立場を世界に向けて積極的に発信することこそが、外務省のそもそもの存在理由だとさえ言えるのに、そうした対応はまったく見られなかったのである。》
一体、どういうことなのか。主催者であるCSIS所属のビクター・チャ、マイケル・グリーンの両元政府高官も討議に参加していたという。両氏とは、外務省はかねてより、「密な関係」の維持に腐心してきたはずだ。CSISに対し、例えば両氏を通じ、積極的な日本側の参加働きかけを行わなかったのか。それとも働きかけたのに撥ねられたのか。
いずれにせよ、こうした外務省に新たに「ジャパン・ハウス」建設予算など付けても、無駄に消えることは余りに明らかだろう。
古森報告にある上記の経緯について、外務省には説明責任がある。自民党の政調会や国会の場で、検証が為されねばならない。なお、古森レポートの全文は下記で読める。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43000
国際激流と日本
ここで声を上げなくてどうする
北朝鮮非難の国際会議に日本の姿なし
外務省は日本人拉致問題の解決をどう考えているのか
2015.02.25(水) 古森 義久
北朝鮮の人権弾圧を非難する大規模な国際会議がワシントンで開かれ、日本人拉致を含む北朝鮮の金正恩政権の非人道的な行為が糾弾された。
同会議には国連代表をはじめ米国、韓国の政府高官らがこぞって出席し、北朝鮮を厳しく非難したが、日本代表の姿はなかった。当然、日本の主張が発せられることもない。日本人拉致事件の解決を国際的に訴える絶好の機会だったのに、なぜ日本は不在だったのか。
米国、韓国から政府関係者ら30人が登壇
同会議は2月17日、米国大手の研究機関「戦略国際研究センター(CSIS)」で開かれた。「北朝鮮の人権 今後の進路」と題され、副題には「国連調査委員会報告書1周年記念」と記されていた。午前8時から午後4時まで3部に分かれたシンポジウムのなかで、日本人拉致を含む北朝鮮の人権弾圧について討議が行われた。
この会議は日本にとっても大きな意義があった。安倍政権が公約として掲げた、日本国民の悲願とも言える「北朝鮮政府による日本人拉致事件の解決」が重要なテーマだったからだ。
しかも会議自体が国際性に富んだものだった。主催組織には前記のCSISに加えて、米国の「北朝鮮人権委員会」「ジョージ・W・ブッシュ研究所」、さらに韓国の「延世大学人道センター」などが加わっていた。
会議にさらに重みを加えたのが国連の関与である。北朝鮮の日本人拉致を含む大規模な人権弾圧を調査し、「人道に対する罪」だと総括した「国連北朝鮮人権調査委員会」(COI)のマイケル・カービー委員長、同次席のマルズキ・ダルスマン氏、同委員のソンジャ・ビセルコ氏の3人が会議に参加して、それぞれ演説し、質疑応答にも加わったのである。この3人には米韓両国から感謝状が贈られた。
COIは2014年3月に北朝鮮の人権弾圧に関する詳細かつ長大な報告書を発表した。日本人拉致についても、横田めぐみさんや田口八重子さんの具体例を挙げて、北朝鮮の犯行を非難したのだった。報告書は、北朝鮮の金正恩第一書記の責任までを問い、日本人被害者たちの早期の全員解放を求めていた。だからその報告書発表からほぼ1年経って、国連のカービー氏らが出てくる会議が開かれたことは、日本にとって重大な意味が存在するのである。
しかもこの会議に出席した米国と韓国側の出席者たちも特別な面々だった。登壇して発言した人たちはちょうど30人である。
米国側からは、オバマ政権代表としてロバート・キング米国務省北朝鮮人権特使、カート・キャンベル元国務省東アジア太平洋担当次官補らが出てきて演説をした。また、ブッシュ前政権の国家安全保障会議でそれぞれ朝鮮半島と日本を担当したビクター・チャ氏、マイケル・グリーン氏もCSIS代表をも兼ねて参加し、活発に意見を述べた。さらに、米国の民間の「北朝鮮人権委員会」や「ハドソン研究所」「ブルッキングス研究所」の代表も討論者として壇上に並び、発言した。
一方、韓国側からは、朴政権の代表の形で李政勲政府人権大使、金文洙セヌリ党保守革新委員長らが出席した。延世大学の学者や月刊朝鮮の編集長だった保守の論客の趙甲済氏もパネリストとして登壇した。さらに北朝鮮の内部を知る脱北者の代表たちも参加して、政治犯収容所での虐待や北朝鮮から中国に逃れた難民女性たちへの迫害の実態を生々しく証言した。
影も形もなかった日本の主張
前述したように会議の主要テーマは、金正恩政権による北朝鮮国民への非人道的な弾圧である。そのなかで日本人拉致の問題も再三提起された。
特に国連調査委員会のメンバーだったカービー、ダルスマン、ビセルコの3氏はそれぞれ「北朝鮮は拉致した日本人多数をいますぐ解放する責務がある」と強く主張した。米韓両国の参加者のなかからも、北朝鮮による外国人拉致、特に日本人の男女の拉致の残虐性を指摘する発言が出た。
実は北朝鮮当局がこの会議が開かれることを非常に懸念し、開催を妨害することを試みていた。北朝鮮国連代表部で米朝関係を担当するチャン・イルフン大使が、同会議の前日の16日にニューヨークで、「わが国に対する米国の敵視政策の一環だ」として中止を求める声明を出していたのだ。それだけ北朝鮮当局の痛いところを突く行事だったということだろう。北朝鮮当局に圧力をかけるという意味で、開催自体が有意義だったとも言えよう。
ただし、問題は日本の存在感がまったくなかったことである。この会議において、わが日本は声も姿もまったく表わさなかった。日本人拉致という、日本の国家にとっても国民にとっても重大な意味を持つ課題が論じられる国際的な会議であるにもかかわらず、日本国代表が1人もいないのである。
この責任は、やはりワシントンの日本国大使館にある。日本国大使館は会議の場となったCSISから徒歩で10分ほどの至近距離にある。会議が開かれることはずっと以前から分かっていた。しかし、日本の声をそこに届ける措置はなにも取っていないのである。
いくら米韓両国が主導した催しであっても、国連が加わることで国際的なドアは広く開かれていた。しかも日本は、北朝鮮から人権弾圧の被害を受ける当事国なのである。しかし、日本の在米大使館も外務省も、なんの措置も取らなかった。日本の考えや立場を世界に向けて積極的に発信することこそが、外務省のそもそもの存在理由だとさえ言えるのに、そうした対応はまったく見られなかったのである。
外務省は自国民の拉致事件の解決を一体どのように考えているのだろうか。今回の会議は、こんな疑問をいやでも提起させたのだった。

