国連報告書で問われるもの−作戦部局も備えた情報機関と軍のあり方 |
下の「正論」で、西岡氏は北朝鮮の独裁機構に対する軍事行動も示唆しているが、かつての日本ならすでに実行に移しているだろう。
関東軍による統制を欠いた工作活動など大いに反省すべき点はあるが、羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹くで、軍事力行使や秘密工作を盲目的に「悪」と規定して悦に入っている戦後日本の方が愚かさの度合いは大きい。
囚われたままの拉致被害者や地獄の収容所で呻吟する人々に、軍を突入させて解放する意志も能力もあったかつての日本と「平和憲法」下の日本のどちらが頼りになるかと聞けば、答は明らかだろう。
なお目下の日本の議論では、「情報機関の必要」と言えば情報収集、分析活動だけが意識されているが、作戦(工作活動)部門も備えて初めて本来の、あるいは一流の「情報機関」と言える。
例えばCIAには4つの部門がある。
情報部局(Directorate of Intelligence)、科学・テクノロジー部局(Directorate of Science and Technology)、管理部局(Directorate of Administration)に加え作戦部局(Directorate of Operations)である。
いくら「行動可能な情報」(actionable intelligence)がもたらされても、「行動」(action)につなげられなければ、実質上意味はない。
大学卒業以来長くCIAに務めたロバート・ゲイツ元国防長官は、1970年代半ば以降、リベラル派によるCIA「行き過ぎ」批判で特に作戦部局がガタガタにされたことが大いに禍根を残したと最初の回顧録で力説している(いま話題の2014年刊ゲイツ回顧録の前に1996年刊の回顧録がある。どちらも大変面白い)。
今回の国連北朝鮮報告書は、日本の「国民救出力」「正義実現力」を根本から問う内容でもある。
産経 2014.2.20
【正論】西岡力氏 中韓は「北の人権」へ責任果たせ
北朝鮮の人権に関する国連人権理事会の調査委員会が、最終報告書を発表した。……
報告書は日本人をはじめとする外国人の拉致はもちろん、▽食糧権の侵害▽政治犯収容所▽拷問と非人間的な待遇▽恣意的な拘禁処罰▽思想と表現の自由の侵害▽生命権の侵害▽移動の自由の侵害▽組織的な基本的人権の否定と侵害−といった9つの調査分野すべてで、北朝鮮政権が組織的で凄惨な「人道に対する罪」を犯していると断定し、「これほどの人権侵害がまかり通っている国は、現代では類を見ない」と非難した。
特に拉致問題については、解決ずみとする北朝鮮の主張を明確に退け、横田めぐみさんら8人「死亡」の根拠はなく、北朝鮮が認めた13人以上、少なくとも100人余の日本人が拉致されている可能性があるとする判断を示した。
さらに、拉致は朝鮮戦争中に始まり、被害国は日本、韓国をはじめアジア、中東、欧州に及び、その命令者は最高権力者だった金日成、金正日だとも明記された。……
注目すべきは、報告書が、こうした凄まじいまでの人権侵害に対しては「国際社会が北朝鮮住民を人道に対する罪から保護する責任がある」と主張している点だ。
ここでいう「保護する責任」は国際法上の新しい概念である。
1990年代の旧ユーゴスラビア紛争で吹き荒れた「民族浄化」に対し、北大西洋条約機構(NATO)は「人道的介入」という当時の国際法上の新概念に基づき、軍事行動に出た。「人道に対する罪」に当たるような人権侵害には内政不干渉の原則を破ってでも軍事介入できる、という考えだ。
「保護する責任(responsibility to protect)」は、それを推し進めたものだ。2005年9月に国連総会首脳会合で「ジェノサイド、戦争犯罪、民族浄化および人道に対する罪から人々を保護する責任を各国が負う」と決議され、国連安全保障理事会も、06年4月と09年11月の決議で確認している。
今回の報告書は、責任者の処罰を国際刑事裁判所(ICC)に付託し、人権侵害を理由に制裁を実施するよう安保理に求めながらも軍事介入には言及していない。だが、原理的には「保護する責任」という概念の中にその選択肢は含まれている。その概念を報告書がうたった意味は限りなく重い。
報告書は安保理常任理事国として「保護する責任」を担うべき中国の非協力的な姿勢を批判した。「何度も脱北している人間がいるのを見ても、送還された北朝鮮の住民が拷問に遭うという主張が事実でないのは明らかだ」などと脱北者の強制送還を正当化する回答を含む往復書簡が公開された。
また、1978年にマカオから孔令譻(ホン・レンイン、Hong Leing-ieng)さんと蘇妙珍(ソ・ミオチュン、So Moi-chun)さんの中国籍女性2人が拉致され、孔さんが大韓機爆破事件実行犯の金賢姫元工作員の中国語教育係だったことも実名入りで示されたものの、中国はそれに回答しなかった。北朝鮮の人権問題は実は中国問題でもあることが改めてはっきりした。
「保護する責任」を中国以上に負うべきは韓国だ。韓国は憲法で北朝鮮を含む半島全域を領土とし全住民を国民と定めている。北朝鮮が住民に重大な人権侵害をしていることは取りも直さず、国民に対する重大な人権侵害なのだ。
にもかかわらず、韓国は報告書発表に際し、「北朝鮮人権状況の改善のために国際社会との協力を強化していく」(外務省)、「韓国政府は北朝鮮人権改善のために今後も国際機関や国際社会と継続して協力を拡大していく」(統一省)という通り一遍の反応を政府の低いレベルで出しただけだ。
韓国政府にとり、北朝鮮住民は「保護する責任」の対象ではないのかと疑わざるを得ない。国会議員、知識人、脱北者らを含む心ある有志は「自由統一フォーラム」を結成し、北朝鮮住民を助けるのは韓国だという姿勢を明確にしている。その主張が韓国内でどれほど拡大していくか注目される。……