日朝協議に関する安倍首相、菅官房長官会見(2014/10/30, 31) |
下記は、首相と官房長官の会見録である。「一刻も早い結果の通報」がない場合、それに応じて圧力を強化するという姿勢が重要だ。
産経 2014.10.30
【拉致再調査】安倍首相発言全文
安倍晋三首相は30日夜、日本人拉致被害者らの安否などを調べる北朝鮮の特別調査委員会との協議を終えた日本政府代表団の伊原純一外務省アジア大洋州局長から首相公邸で報告を受けた後、記者団の取材に応じた。首相の発言は以下の通り。
◇
平壌で行われました特別調査委員会との協議について、帰国した伊原局長から報告を受けました。日本側代表団は、徐大河(ソ・デハ)委員長ら責任者と2日間、10時間以上、協議を行いました。拉致問題が最重要課題であることなどですね、日本側、日本政府側のですね、立場を改めて、明確に先方に伝えました。
そして、北朝鮮側からですね、「過去の調査結果にこだわらず、新しい角度から、くまなく調査を深めていく」との方針について、日本に示されたところであります。
そして、調査委員会の態勢や調査の方法、現状について、詳しく聴取を行いました。
なお、特殊機関に対してもですね、徹底的に調査を行うとの説明もございました。
今回の平壌派遣によってですね、拉致問題解決に向けた日本の強い決意を先方に伝え、そして、この強い決意はですね、北朝鮮の最高指導部に伝えたわけでありますが、拉致問題について、今後の迅速な調査と、一刻も早い結果の通報をですね、要求したところであります。
詳細については明日、官房長官から説明をいたしますが、対話と圧力、行動対行動の原則にのっとってですね、基本方針のもと、拉致問題の解決に、今後とも全力を尽くしていく決意であります。
産経 2014.10.31
【拉致再調査】菅長官会見詳報(1)北側「調査委には特別な権限が付与されている」
菅義偉(すがよしひで)官房長官は31日の記者会見で拉致被害者らの調査をめぐる政府代表団と北朝鮮の特別調査委員会の協議結果を説明し、北朝鮮側からは拉致被害者の安否について「具体的な通報はなかった」と述べた。会見の詳細は以下の通り。
■客観的、科学的な調査を行う
「北朝鮮の特別調査委員会による調査に関して、27日から30日まで政府担当者を平壌に派遣をした結果の概要を説明する。政府担当者は28、29日の2日間にわたり特別調査委員会の徐大河(ソ・デハ)委員長、2人の副委員長、分科会責任者と約10時間半、面談協議しさまざまな質疑を行った。北朝鮮側から委員会および支部の構成といった態勢や証人・物証を重視した客観的、科学的な調査を行い、過去の調査結果にこだわることなく新しい角度からくまなく調査を深めていく、との方針の説明があった」
「また調査委員会は、北朝鮮の最高指導機関である国防委員会から特別な権限を付与されており、特殊機関に対しても徹底的に調査を行う、との説明があった。拉致問題については個別入境の有無、経緯、生活環境などを調査している、被害者の滞在した招待所跡などの関連場所を改めて調査するとともに新たな物証証人などを探す作業を並行して進めている、との説明があった。それ以外の調査の分野についても具体的な調査の方法や現状について説明があった」
「今回の北朝鮮側の説明は基本的には調査の現状についての説明であり、拉致問題を含む新たな具体的な情報を含む調査結果の通報はなかった。日本側からは拉致問題が日本にとって最重要課題であることを繰り返し強調するとともに、調査を迅速に行い、その結果を一刻も早く通報するよう北朝鮮側に強く求めた。政府としてはすべての拉致被害者の帰国に向け、引き続き全力を尽くしていく」
2014.10.31
【拉致再調査】菅長官会見詳報(2)「北朝鮮がゼロベースで調査と理解」
--協議の内容についての評価と、今後の対応について
「今回、徐大河(ソ・デハ)委員長をはじめとする調査委員会の責任者たちと直接会い、拉致問題が最重要課題であることをはじめとして日本政府の立場を明確に伝えた。また調査の現状の詳細についても把握できたことは意味があったと思う。特に、今回の平壌派遣によって、拉致問題解決に向けた日本の強い決意を北朝鮮の最高指導部に伝えることができた。これが今後の迅速な調査、一刻も早い結果の通報につながると期待する」
--成果を出す上での今後の対応や、調査結果の回答期限については
「今後北朝鮮側からの説明や通報が、今回のように全体をまとめた形でなされるのか、あるいは随時報告されるのかを含め現時点では決まっていない。いずれにしろ北朝鮮側には、迅速な調査を行い、その結果を速やかに通報するよう強く求めたと」
--北朝鮮側の「過去の調査結果をこだわらず」という意味をどう取るか
「北朝鮮側は『拉致問題については解決済み。8人名死亡4名未入境』ということであったが、今回北朝鮮側からは『調査の信頼性を確保するために客観的・科学的な方法で調査する。過去の調査結果を参考にするが、それにこだわることなく調査を深めていく』という説明があった。わが方としては、北朝鮮が従来の主張にこだわることなくゼロベースで調査を進めていく、と理解している」
--調査結果の通報が遅れている理由についてどのような説明があったのか
「今回の協議の一番の意図は、拉致問題が最重要課題である、そうしたことを北朝鮮側、特に最高指導部に日本の強い決意を届かせることが一番の問題だった。そうしたことについて北朝鮮側が具体的に個別の入境の有無や経緯を調査をしている、と。そして調査の中で物証、証人などを探す作業を並行して進めているという趣旨の説明があった」
「そして日本側からは個別の拉致被害者に関するものも含めどのような方法で調査を進めているのか、調査の現状についてさまざまな角度から詳細な質問を行った。具体的なやりとりの詳細については控えたいと思う。北朝鮮側からはこれから調査を深めていく段階で、途中段階で憶測を招くような説明は避ける、そして現時点で客観的な資料を発見できていないという説明があった」
--長官は以前に「拉致問題の情報は北朝鮮が把握している。時間はそんなに掛からない」などと述べている。そういった考えからすると、なぜこんなに時間がかかっているのか疑問が残る。その点は協議で質問したか
「当然日本側は、拉致をした日本人に対しては北朝鮮側が政府として管理していると思っている。そうしたことも含めて今回、特別調査委員会の委員長をはじめとする責任者に対して、『きちんとしてほしい』ということだ」
--そのことに対する回答は
「詳細は控えたい」
--徹底的に調査するという「特殊機関」とは拉致の実行部隊か
「詳細については分からないが、いずれにしろ調査委は、すべての関係者について調査するという権限を有しているということだ」
--日本人遺骨や日本人配偶者についての説明は
「拉致被害の分科会ついても、北朝鮮側からさまざまな説明があったが、遺骨分科会についてはすでに探されている日本人の墓地などの調査・実態とともに、新たな埋葬地の発見に努めている、という説明があった。残留日本人・日本人配偶者分科会については、資料を分析するとともに、現地調査により証言を聴取し人定事項などの確認に努める、との説明があった」
--遺骨問題に関しては、現時点で分かっていることを通報する、ことだったのか
「今回の分科会の中には、従来いわれている墓地と、新たな埋葬地の発見に努めていると同時に、具体的な情報を含む調査結果の通報はなかったということだ」
--今回の協議を受けて、全般的に北朝鮮は信頼に足るとみるか
「私たちは、北朝鮮は拉致をした日本人についてはすべて掌握しているだろうと思っている。そういう中でこのような報告だった。いずれにしろ、今回は最初から日本は拉致問題が最優先である、そのことをしっかり相手側の責任者に強く申し入れるということが趣旨だった。そこはできたと思う」
--北朝鮮がさらに調査を引き延ばしているようにみえる
「日本とすれば『対話と圧力』、『行動対行動』の基本原則の下にこの問題を解決するという考え方だ。今日まで長らく交渉さえできなかったわけで、その中で安倍首相は何としても自らの政権の中で全員を取り戻すという形で、この交渉が始まった。すぐにこうした結果が出るという簡単なものではないということもご理解いただきたい。しかし、少なくともいつまでもずるずる、ということではなくて、1年を目途にしっかり政府としては北朝鮮に対応していきたい」
2014.10.31
【拉致再調査】菅長官会見詳報(3)「制裁の解除、人道支援への言及はなかった」
--日本側は特定失踪者の問題も挙げていたが。特定失踪者の調査状況は
「今後の対応に支障をきたすおそれがあるので答えることは控えたいと思う。日本としては交渉過程の出てきていることについても、まだ交渉段階であるのでこの場で発表すべきでないと思う」
--調査について1年を目途にということだが、「一刻も早い通報」ということに対する北朝鮮の反応は
「そこは随時ということは、強く日本としては求めているということだ」
--北朝鮮側の反応は
「北朝鮮側がどう答えたかについては控えたい。政府間交渉の中では、発見をされたら随時通報するということになっているので、そうしたことを守るべきということを日本側として強く求めている」
--日本側の「拉致問題解決が最重要課題」という意思は理解されたのか
「日本の考え方は伝えられた、と思っている」
--北朝鮮側から、調査の進展による制裁の解除についての提案はあったか
「今回の訪朝の中で、制裁の解除、人道支援、そうしたことの言及はなかったと報告を受けている」
--これまでの宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使を窓口に交渉していたことにあまり意味がなかったのではないか
「これは国と国との交渉ごとだから、最初はやはり外交の人間が出てきた。しかし、実態は保衛部、権力が集中している者がその責任者になったので、そこについて日本の拉致問題の重要性というものを訴える機会だった。当然、日本の意思というものは明快に伝わった」
--今後も北京の大使館ルートを通じて連絡を取り合うと思うが、今後の調整はこれまでと同じように北京の大使館ルート、ソン・イルホ大使を相手に交渉するのか。それとも今回会談した仕方になるのか
「いずれにしろ日本の立場がいわゆる権力の中枢にある人間に伝わったわけだから、そこから先はいろんな交渉の仕方があるんだろうと思う」
--日本が拉致問題を重要視しているが、これを言い続けているだけでは前に進まない。今回の協議で制裁を解除を元に戻すとか提示したことは
「日本とすれば、対話と圧力、行動対行動がこの問題の原理原則そして交渉していくということだ」
--今回の協議で説明があったと思うが、書類や写真といった資料について提示があったか
「今回、先ほど申し上げたが、833人の行方不明者とか、そうした北朝鮮側に対して資料提供したとか、それについては今後支障をきたすので答えることは控えたい」
--次回の協議について日程や場所は
「まだ現時点で決まっていない」
--拉致被害者家族からは訪朝に慎重な声が上がっていたが
「たぶんこれから説明に入るのだろうと思う。政府としては現状の中で最善の考え方に基づいて行動しているということだ」
--第1回の調査報告の件だが、夏の終わりから秋の初めと言っていたが、期限を区切った方がいいのではないか
「政府間交渉の中で夏の終わりから秋の初めという形でスタートしたわけだから、秋をどこまで伸ばすか、常識的にはこの当初の原理原則に基づいて行われるべきだと思う」
--前回北朝鮮側は、「まだ初期段階なので報告できない」ということだったが、それについて初期段階がどういうことなのか、いつなら報告できるのかという説明はあったのか
「当然、今回政府としてはどんな調査をしているのか、現状はどうだとか、いろんなことを10時間半の協議の中で申し入れている。そういう中で、いろんな説明もあって、政府としてさまざまな今回で得られた情報を分析して、対応していく」
--調査委が立ち上がって4カ月たったが、まだ初期段階という認識を北朝鮮側は持っているのか
「どういう調査をしているかということは先方から説明があった。調査の具体的なこともあったから、そこで明らかになったことについて日本側は速やかに報告するように、ということを今回求めた」
--明日から11月になるが、通報は少なくとも年内にはということか
「常識的にはそうだ」