国務省、知日派との意思疎通にすら躓く外務省とは |
「防空識別圏」を名目にした中国の一方的な「領空の拡大」に米オバマ政権が半ば屈したことに関し、「このように外に見える形で米国が日本の安全保障上の利益を害した例はない」とする外務省OBの岡本行夫氏の下記論説は示唆に富む。
「もし米行政府内の国防関係者以外の人々に日米同盟への意識の希薄化があり、今回の軽率な方針の遠因となっているのであれば深刻だ」という氏の指摘は正鵠を射ているが、何より岡本氏自身を含む外務省一家にとって深刻と捉えるべきではないか。
「米行政府内の国防関係者以外の人々」の中心を為す国務省との緊密な連携こそが、外務省の最大の売り物のはずだからだ。一体、国務省・外務省間の意思疎通はどうなっていたのか。
下の二つめの記事に、米国における慰安婦問題での誤解拡大を、「外務省幹部は『放っておけば鎮火すると思われていた山火事は広がる一方だ』と自嘲気味に語る」とあるが、ワシントンで日常的に接するはずの「知日派」の無理解すら解消できない外務省の責任はここでも深刻だ。
「寝た子を起こす」云々を理由に「米国での広報戦を担う肝心の外務省には躊躇する空気が漂う」のが事実なら、怠慢ないし無能力の告白という他ない。ジム・アワー元国防総省日本部長のように、正しく慰安婦問題を理解している人もいるからだ。
逃げの反論ばかりしてきたのが間違い、とまず既往を総括すべきだろう。下記エントリ参照。
■慰安婦問題で認識を深化させる優れたアメリカ人
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/3111066/
産経 2013.12.8
中国の日米分断に乗るな
MITシニアフェロー・岡本行夫
尖閣諸島上空を含めた中国の防空識別圏設定に対して、日本政府は毅然と対応した。米国も自身の国防の観点から直ちに反応し、戦略爆撃機B52を飛行させた。しかし米国は、民間航空機については中国の要求する飛行計画書の提出を認め、中国を大喜びさせている。中国外務省スポークスマンは、「米国の航空会社の建設的態度を称賛する」と述べる一方、「日本は誤ったやり方と不合理な非難をやめるべきだ」と胸を張った。
日米民間機とも飛行計画書を提出していなければ、いかに中国とて日本の航空機だけを「防御的措置」の対象にはできない。かといって、米国民間機に何かをすれば、米国世論は激高し、米中関係は一挙に悪化する。結果的に、中国は日米双方の民間機に手出しできない。
しかし、今や中国には、米国民間機を除外するれっきとした理由ができて、日本機だけを狙うことが可能になった。軍用機に警告されれば、民間機は要求に従わざるを得ない。日本の民間機は大きな不安の中におかれることになる。米国の国防政策と外交政策が乖離して生じた今回の方針だが、このように外に見える形で米国が日本の安全保障上の利益を害した例はない。日本政府は方針変更を米国に要求すべきだし、それを聞かない米国でもあるまい。
やり方はあるだろう。今回の米政府の方針は、記者会見での質問を受けての「一般的には、航空会社が各国の通告に従うことを期待する」という発言にすぎない。米国はその発言を「ただし、単にこの空域を通過して他の国に向かう航空機は飛行計画を提出する必要はない」と補足すべきだ。他にも方法はあろう。要は、米国が事態の重要性を認識し、発言を修正する政治決断を行うことである。
私が籍を置くマサチューセッツ工科大学は世界の大学ランキングで第1位だが、ここでも中国や韓国の存在感が日本を圧倒する。日本の留学生は学部全体に僅か3人だけ。キャンパス中に英語版の人民日報が無料で積まれ、学生の多くは尖閣を「ディアオユウダオ」と中国名で呼ぶ。日本政府は、「日中間に領土問題は存在しない」として、長いあいだ国際世論へのPRを行ってこなかったが、中国のキャンペーンはものすごい。日本に絶対的な分がある事例なのに、アメリカでは「日本と中国、どっちもどっち」という意識が広がる。
深刻な数字がある。外務省がギャラップ社と共同で数十年間継続している「アジアにおけるアメリカの最も重要なパートナーはどこか」という質問への回答だ。1990年代半ばには、「日本が最も重要」と答えた米国有識者が8割に達したが、現在は40%に下がっている。そして、実に54%の人々が「中国が最も重要」と答えているのだ。
もし米行政府内の国防関係者以外の人々に日米同盟への意識の希薄化があり、今回の軽率な方針の遠因となっているのであれば深刻だ。今や日本の対中、対韓外交の主戦場は米国である。対米アプローチを立て直すときだ。(おかもと ゆきお)
産経 2013.12.6
【新帝国時代 第7部・際限なき挑発(2)上】
知日派も「慰安婦」うのみ、国際世論の主戦場・米でも後手に
知日派で知られる元米国務副長官、リチャード・アーミテージの唐突な言葉に自民党の国会議員たちはあっけにとられた。「悲しい思いをした女性が一人でもいるなら、それは決して許される問題ではない」
東京・永田町の党本部で10月31日に開かれた政策勉強会「経済活力・雇用創出研究会」。日米同盟の重要性や経済問題について講演と質疑応答を終えた後、突然、激しい口調で慰安婦問題について発言し始めた。日本が慰安婦を強制的に集めたとする韓国側の言い分に沿ったものだ。
「なぜいきなりそんな話をしているのかと不思議に思った」。出席議員の一人は振り返る。アーミテージは、特に安全保障面で安倍晋三政権を支持する言動で知られる。それが慰安婦問題では、日本の立場にはほとんど理解を示さない。
安倍首相の靖国神社参拝に理解を示す米国ジョージタウン大学教授のケビン・ドークさえ「慰安婦を利用していたこと自体が非道徳的で罪」とし、元米国務省日本部長のケビン・メアも「外国では誰も同情しない」との立場だ。
知日派たちのこうした態度は、慰安婦募集の強制性を認めた平成5年の「河野洋平官房長官談話」の根拠となった元慰安婦からの聞き取り調査が極めてずさんだったことが明らかになっても変わらない。
アーミテージらは昨年8月に出した日米同盟に関する報告書でも歴史問題に触れている。「日本は日韓関係を複雑化してやまない歴史問題に向き合うべきだ」と主張する。北朝鮮や中国に対する日米韓の連携を重視するがゆえの意見だが、日本側には受け入れがたい一方的な考え方といえる。
韓国がロビー活動
「慰安婦問題について、米国で日本が反論できる言説空間はない」。米国情勢に詳しい日本政府関係者は話す。国際世論作りの主戦場である米国で後手に回り続けてきた日本は挽回の機会さえ失いつつあるという。
「韓国は国を挙げて慰安婦問題のロビー活動をしており、米政府内には韓国側の主張が浸透している」。ある閣僚経験者は、在京の米国大使館関係者から最近、こう言われた。
日本政府は、遅ればせながら積極的な対外発信に取り組み始めた。政府高官は「来年度の対外広報予算を倍増する」と断言する。慰安婦問題でも日本の立場を積極的に発信する方針だ。だが、米国での広報戦を担う肝心の外務省には躊躇する空気が漂う。
「日本側が下手に『ドラ』を鳴らせば、相手がこれを聞きつけて集まり、さらに大きな音で『ドラ』を鳴らされかねない」。外務省幹部はこう危惧する。
米国やカナダで、慰安婦問題に強い関心が持たれているのは、韓国系住民が集中して一定の影響力を持つ地域に限定されている。それ以外の韓国系住民の中には慰安婦問題の動きを知らない人もいる。日本が大々的に動けば、問題が拡散し「寝た子を起こす」ことになりかねないというのだ。
「河野談話」足かせ
もちろん、外務省も動いてはいる。在米の大使館や領事館に対し、細かな情報でも報告するように指示。「火消し役」の領事館員を東京から現地に派遣している。実際、「韓国系市議が像設置を市長に働きかけた」「慰安婦に関する市民集会に市議数人が集まっていた」という情報が多く集まってくる。
そのたびに領事館員が現地に出向き、慰安婦問題を含め日韓間の請求権問題は昭和40年の日韓基本条約と日韓請求権・経済協力協定で解決済みであることなどを、地域の実力者や地方議員に訴え、像の設置などに賛同しないように働きかけている。ただ、足かせになっているのは、やはり強制性を認めた「河野談話」だ。領事館員たちは、それを否定するところまでは踏み込めないという。
これまでの「事なかれ主義」は、6年前の米下院による慰安婦非難決議や、それを根拠とする米国東部ニュージャージー州や西部カリフォルニア州での慰安婦碑、慰安婦像の設置につながった。外務省幹部は「放っておけば鎮火すると思われていた山火事は広がる一方だ」と自嘲気味に語る。