書評:古森義久『中・韓「反日ロビー」の実像』 |
月刊『正論』平成26(2014)年1月号が出た。
私も短い書評を一本寄稿した。サンプル代わりに下に引いておく。
■書評:古森義久『中・韓「反日ロビー」の実像』
福井県立大学教授 島田洋一
まさに時宜を得た出版だと思う。アメリカにおけるロビー活動(議会や政府への働きかけ)の特徴や歴史を辿り、中国ロビーのあり方を分析した前半も大変示唆に富むが、白眉はやはり1990年代半ば以降の「反日ロビー」の実態に迫った後半部だろう。この課題は、長年ワシントンを拠点にジャーナリスト活動を続け、中国総局長の経験も有する古森氏の独壇場と言える。
一党独裁を維持しつつ、アジア・西太平洋における覇権確立を狙う中国共産党政権にとって、歴史カードを用いた「『日米離反』は年来の外交目標」である。その目標達成に向けたいわば正規軍が中国大使館(大使以下、日本に比べ、対米工作に特化した人材を揃えている)とすれば、裏の特殊部隊と言えるのが「世界抗日戦争史実維護連合会」(Global Alliance for Preserving the History of WWⅡ in Asia)である。
抗日連合会が結成されたのは1994年、「94年といえば、中国では当時の国家主席の江沢民が愛国反日の教育をスタートさせようとしていた。日本では河野談話が出されたのが1993年、村山談話が出たのは95年」と古森氏は指摘する。つまり、中国がアメリカで反日ロビー活動を本格化させた時、日本側では逆に自虐・謝罪姿勢を強めているのである。これでは始めから勝負にならない。
反日ロビーの最大の成功例は、「日本にとっての汚辱の日」と言うべき2007年7月30日の米下院「慰安婦問題日本非難」決議である。その提出者マイク・ホンダ議員(民主党)の選挙区に、実は抗日連合会の本部がある。日系議員が日本批判の先頭に立てば宣伝効果は絶大だ。ホンダを、特に資金面で連合会が「育ててきた」経緯を古森氏は子細に検証している。
なお連合会のウェブサイトには、「朝鮮、中国、フィリピン、インドネシアその他では約50万人の女性、少女が日本軍の性的奴隷として拉致され、何年もの間、連日、強姦された」と記載されている。謝罪すれば相手は許すどころか嘘を拡大してくるのである。
この中国系の抗日連合会と「密接な絆を保ってきた」のが、「少数の活動家を主体に、それなりの実績を重ねてきた」反日韓国ロビーである。1994年旗揚げの「ワシントン慰安婦問題連合」がその中心にある。河野談話が出た翌年で、「この二つの動きに関連があることは明白」と古森氏は言う。
本書から浮かび上がるのは、中国側の精力的かつ悪辣な戦略性と韓国側の愚かな走狗ぶり、そして気概なき低姿勢で更なる攻撃を招く日本側のナイーブさである。中国はもとより朴槿恵政権下の韓国も反日ロビーをさらに強めてこよう。
なおも謝罪と「アジア女性基金」を盾にしのげると考える外務省系アドバイザーらに安倍政権が引きずられるなら、状況は悪化こそすれ改善は見込めないだろう。