ランディ・シンガーの法廷ミステリー『最後の司法取引』 |
ランディ・シンガーの法廷ミステリー『最後の司法取引』を読んだ(Randy Singer, The Last Plea Bargain, 2012)。
両親(弁護士の父と犯罪心理学者の母)が押し込み強盗の犠牲になった若い女性検事が主人公。上司(州検事総長)の州司法長官選挙への出馬(アメリカ独特のシステム)や犯人とされる黒人の再審をめぐる弁護側との攻防、その主任弁護人の夫人殺害疑惑などが絡み、大いに読ませる。
作者自身、法曹界の人間のため、法廷場面のやりとりもいつもながらリアリティがある。
シンガーの小説はこのブログで何度も取り上げてきたが、いまだに1冊も邦訳がないのはミステリーだ。
アメリカでは刑事事件で起訴された被告側の9割以上が司法取引に応じ、有罪を認める(また、および、検察側の捜査に協力する)代わりに刑の軽減を得る形になる。もし被告全員が無罪を主張しあくまで争う姿勢を取ると、司法システムはパンクする。
実際この小説でも、有力法律事務所に所属する悪徳弁護士が収監中にギャングのボスと取引し、ほぼ無償で弁護を引き受ける見返りに、他の収監者を脅して全員が司法取引に応じないという法執行当局への嫌がらせをするよう依頼する(聞き入れず司法取引に応じた収監者はみな釈放後殺害される)。
司法取引は、検察・弁護側の事前合意に基づき裁判官が言い渡す。典型的な場面を引いておこう。
“The state recommends that Mr. Rivera be sentenced to five years in prison, with all but sixty days suspended, including time served, conditioned on Mr. Rivera’s continued cooperation in other cases where he is providing valuable information and testimony. We also recommend that Mr. Rivera be placed on supervised probation for ten years.”
(仮訳)州は、リベラ氏に5年の禁固刑を言い渡すとともに、すでに収監されていた期間を含む60日間を除き、執行猶予とすることを提案する。リベラ氏が、有益な情報および証言を提供している他の事件に引き続き協力することが条件となる。われわれはまた、リベラ氏を10年間保護監察下におくことを提案する。(p.166)
法廷物で著名なアメリカのベストセラー作家には、例えばジョン・グリシャムがいるが、ややリベラル(進歩派)臭があり、政治的にもバランスの取れたシンガーの方が私には面白い。イスラム・ファシストのテロを扱った作品もある。下記エントリ参照。
■ランディ・シンガーのテロ・法廷小説 『致命的信念』
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/2347217/