「銃離れできないアメリカ社会」といった単純な報道を越えるべき時 |
「いまだに銃離れできない愚かなアメリカ人」といった類の単純な報道や評論が、日本におけるアメリカ理解を随分妨げてきた。
紙幅の関係が大きいと思うが、下記産経の記事でも、同記事のいう「銃と米社会の複雑な関係」が充分伝えられているとは言い難い。
例えば、しばしば悪徳圧力団体の代表のように描かれる「全米ライフル協会」(下記記事はそう単純ではない)は、銃を犯罪に使った者は厳罰に処すよう一貫して求めてきた。
凶悪犯罪者に過剰な「理解」を示し、すぐ一般社会に出してしまうリベラル派主導の甘い法執行姿勢が銃犯罪を増加させてきた、というのが保守派の重要な主張である。
その他さまざまな論点について、下記エントリ参照。
■若者に人気ロン・ポール候補の銃保有論―米大統領選
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/2563605/
■ランディ・シンガーの法廷サスペンス『司法ゲーム』 (Justice Game)
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/1235688/
産経
米大統領選 避けられ続ける「銃規制」
2012/11/01
銃乱射事件が後を絶たず、銃による死者が年間3万人に上る米国だが、銃規制問題は11月6日に迫った大統領選の主要争点にはならず、選挙戦を通じて避けられてきた印象すら受ける。銃規制に対するバラク・オバマ大統領(51)、ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事(65)の姿勢からは、銃と米社会の複雑な関係が浮かび上がる。
■討論会で踏み込まず
「乱射があった映画館にはこれまで50回以上も行った。事件の日も行こうと思ったが、お金がなくて行けず、難を免れた」
西部デンバー近郊で7月、大学院生が銃を乱射して12人が死亡、58人が重軽傷を負った映画館近くの広場。無職のエンゼル・ヘルナンデスさん(18)はおびえつつそう語った。
デンバーでは事件後、銃規制の論議が白熱化している。エチオピアから14年前に移民した会計士アブラハム・ムサさん(40)は「戦地さながらに銃で殺されるのは狂気の沙汰だ。自衛でも銃所持は正当化できない。妻には常に『米国で他人とけんかするな。いつ撃たれるか分からないぞ』と言っている」と話す。
これに対し、銃所持賛成派の弁護士ロン・フィッツジェラルドさん(62)は「銃所持は米国の伝統。きちんと規制した上で認めるべきだ。感情的な議論は無意味だ」とくぎを刺す。
デンバーとは対照的に大統領選で銃規制論議は盛り上がらない。オバマ大統領とロムニー氏の第1回討論会では議題にすら上らなかった。第2回討論会で業を煮やした女性が双方に質問し、やっと日の目を見た。
ロムニー氏は銃規制反対を主張。オバマ大統領も「(規制可能か)様子を見る」と具体策に踏み込まなかった。ニューヨーク・タイムズ紙は10月18日、「無視され続ける問題」との社説で両者の対応を批判した。
■ライフル協会の存在
オバマ氏は大統領就任後、銃規制に踏み込むとみられていた。これを受け銃購入の駆け込み需要が急増、銃製造大手スミス&ウェッソンの販売も4年で44%増を記録した。ところが大統領の腰は重いままだ。
背景にあるのは、銃のロビー団体「全米ライフル協会」(NRA、会員約400万人)の存在だ。NRAは過去に銃規制派の議員を何度も落選に追い込んだ。2000年の大統領選で民主党候補のアル・ゴア元副大統領が敗れたのは、銃規制を強く主張したことも一因とされる。
一方、ロムニー氏は知事時代、州の銃規制案に署名した後、“変節”した経緯がある。08年の大統領選で共和党候補の指名争いの際、「私はハンターだ」と豪語したが、実はNRAの支持獲得を狙った誇張だったとされる。実際仕留めたのはウサギなど小動物と後に分かり、失笑を買った。
NRAがこれほどの存在感を持つのは、今も多くの米国民が強盗や住居侵入者への自衛のために銃を保持しているからだ。憲法も銃所持を認め、全米で3億丁の銃が出回る。
こうした事情もあり、デンバー郊外の乱射事件後の調査でも銃規制派は47%、規制反対派は46%と拮抗する。
デンバーで銃講習を行うNRAの女性会員クリス・モリソンさん(62)は「ロムニー氏はベストな候補とはいえないが、支持する」と述べ、銃所持の権利は米国で永久に保証されるべきだとの考えを示す。
銃規制活動家のジョン・ローゼンタール氏(55)は「オバマ氏ら民主党は臆病すぎる」と話し、オバマ氏が再選されれば規制に本腰を入れるべきだと訴えた。
(デンバー 黒沢潤/SANKEI EXPRESS)