崩壊か、再生か…日米同盟の行方(完)―『正論』2011年2月号より |
福井市は積雪1メートルを超える25年ぶりの大雪となった。今日はJR北陸本線も終日運行停止である。
月刊『正論』2011年2月号掲載の拙稿から、後半部分を転載しておく。前半は2回に分けて下記エントリに載せた。
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/2094713/
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/2121235/
崩壊か、再生か…日米同盟の行方(完)
島田洋一(福井県立大学教授、国家基本問題研究所企画委員)
2012年大統領選の展望
外交政策においては、内政に比べ大統領の裁量の余地が大きい。以下、2012年大統領選の行方を展望してみよう。
2010年末で期限切れとなる「ブッシュ減税」の延長問題で、オバマ大統領は共和党側と妥協し、「富裕世帯」(年収2500ドル以上。共和党に言わせれば、その多くは「雇用創出者」たる中小企業主)については減税打ち切り(実質増税)とする従来方針の撤回(2年間棚上げ)を余儀なくされた。これに対し、民主党の左派から大統領の「裏切り」を難ずる強い批判が湧き起こる。アメフトのイメージを用い、「サード・ダウンでパントに出た」と非難する中堅議員も見られた(アンソニー・ウィーナー下院議員)。このためオバマに対抗する左派候補が出馬し、民主党でも予備選となる可能性がある。
近年のギャラップ世論調査では、自分は「リベラル」だと答えるアメリカ人が約20%、「保守」だと答える人が40%との結果が出ている。それゆえ、予備選で消耗戦を強いられるのはオバマにとってマイナスである反面、元来左翼であるオバマが、ハードレフトと戦うことで「左中間」(センターレフト)を印象づけられれば、かえって本戦でプラスになるとの見方もある。この辺り、今後の各陣営の戦い方次第だろう。
一方、共和党側では、知事経験者のミット・ロムニー、マイク・ハッカビー(いずれも2008年大統領選でも名乗りを上げた)や元下院議長ニュート・ギングリッチらが意欲を見せているが、やや「古い」感じが否めない。
中堅・若手では知事や下院議員に有力政治家が多い。が、現時点で抜け出た候補はおらず、今後1年の予備選開始までの間にどの程度実績を上げられるかが勝負、との見方が支配的なようだ。
目下、人気投票で最上位にあるサラ・ペイリン前アラスカ州知事(元副大統領候補。46才)は、理念の明瞭な「レーガン保守」で、草の根保守層に巨大な影響力を持つトークラジオ界の大物ラッシュ・リンボーらから常に好意的に扱われている。
ただ、知事を1期目半ばで辞任したことから、政治家としての自覚や経験の不足を問う声も多い。とかくハリウッド俳優出身が強調されるロナルド・レーガンの場合も、カリフォルニア州知事を2期務めた政治的実績を引き下げての大統領選出馬だった。
ともあれ、対メディアでも戦闘的なペイリンは、敵味方双方にとって刺激的な存在であり、大統領選において台風の目となることは間違いない。
なおジョン・ボルトンも、各種インタビューで出馬への意欲を語っている。経済問題に関心が向きがちな中、「自分が参戦して外交・安保論議をリードし、甘い議論はできないと他陣営に思わせるだけでも意義がある。決まり文句を並べるだけの共和党候補では、説得力を持ってオバマに対抗できない」というのが本人の弁である。
同盟においても迫られる「自己責任」
「中国は悪の枢軸に加わった」と題するウォール・ストリート・ジャーナル紙の論説(ブレット・スティーブンス執筆。2010年12月7日)は、北朝鮮の核兵器開発を支えているのは中国であると指摘し、「あれほど意図的に問題の一角をなしている北京に、解決の一角を担うよう促すことに何の意味があるのか」と基本的疑問を呈している。「制裁されねばならないのは中国だ」が同コラムの結論である。
ここまで明確でないにせよ、最近アメリカでは、民主・共和の党派を超え、露骨に勢力圏拡大を図る中国に、従来以上に力で対抗せねばならないとの認識が広がってきた。
2010年9月の尖閣衝突事件に絡んだレアアース対日輸出停止が、中国は「ほんの少しでも気に障れば経済戦争を仕掛ける危険なまでに手の早い」「ルール無視のならず者経済大国」(リベラル派学者のポール・クルーグマン)との印象を植え付けたことも大きい。この覇権国家が、南シナ海から東シナ海へと続くシーレーンを押さえれば、明らかに自由にとっての脅威となろう。
それゆえ2010年7月、クリントン国務長官が、南シナ海を自国が支配すべき「核心利益」と位置づけた中国を「航行の自由は米国の国家利益」と牽制し、関係国間協議を呼びかけた際、米保守派も一様にこれを歓迎した。
中国への要求としては、例えばウォルター・ローマン・ヘリテージ財団アジア研究センター長が次の点を挙げている。なおローマンが言う「9ダッシュ記号地図」とは中国が南シナ海に一方的に設定した「核心利益」範囲を指す(地図参照)。
南シナ海におけるその意図を最も明確に示す方法として、中国側に対し、9ダッシュ記号地図(nine-dash map)を否認するよう迫らねばならない。あの地図は、中国が台湾に対して配備している1000発以上のミサイルとよく似ている。すなわち、「平和的興隆」云々の中国のいかなる主張ともはっきり矛盾するものだ。
この提言と日本との関係について、かつて国防総省で日本部長を務めたジェームズ・アワーは次のように述べている(国家基本問題研究所「今週の直言」、2010年11月8日)
日本は、尖閣諸島はじめ自国領土を軍事的脅威から防衛する上で米国にパートナーになってほしいと考えているが、南シナ海で日本は米国並みか米国以上の利益を有している。それゆえ、日本は南シナ海での偵察活動に進んで参加すべきだ。偵察活動は日本の現行法で可能だし、自衛隊にはその能力がある。とりわけ米第7艦隊との協力でその能力は生かせる。
傾聴すべき指摘だが、日本にはその前に取り組むべき安全保障上の課題があまりにも多い。アワー自身、例えば次のように釘を刺している。
「日本が尖閣防衛の措置を講じなければ、米国は単独で防衛するでしょうか」とこの学者は疑問を呈した。私は、同盟国が自ら何もしなければ、米国がその同盟国の防衛に出動することは難しいと認めざるを得なかった。
日本が尖閣諸島を自国領であると主張する法的根拠は強固だ。しかし、領土維持の決意をはっきり示すには、領土防衛のために血を流す覚悟がなければならない。
米民主党、共和党が揃って中国に対する軍事的対応強化を打ち出す中、おそらく対中政策は2012年大統領選挙において尖鋭な争点とはならないだろう。逆に言えば、日本が及び腰に終始するなら、党派を問わずアメリカから批判の矢が飛んでくることになろう。
尖閣の領有権確保は日本の「自己責任」である。中国の脅威に対する軍事的備えをおろそかにしつつ、中国が拒否権を振り回す国連に言われるままに拠出金を出し続ける日本。ティーパーティー参加者ならずとも、誰が考えてもおかしいだろう。
有事の際、出撃する米軍機が、何らかの事情で日本に緊急給油を求めても、またそれが日本自身の安全保障に資する出撃であっても、現行の法解釈の下では、それを断らねばならない。憲法が禁じる集団的自衛権の行使に当たるから、とされている。
が、仮に日本がある国と安全保障条約を結んでいて、危急の際その国に給油を求めてノーと言われたら、そのような国をわれわれは「同盟国」と認めるだろうか。
アメリカで、日本は正常な意味での同盟国ではないとの認識ないし苛立ちが、目下、一般庶民レベルにまで広まっていないのは、単に事実が知られていないからに過ぎない。
が、サンテリの「ティーパーティー」呼び掛けが瞬く間に全米に広がったように、一朝事あり、日本の非協力のため米軍兵士に犠牲でも出れば、アメリカにおける反日・侮日感情の広がりは間違いなく一瞬の事象となろう。
【ついでに】
『田島』(福井県三国町)のセイコガニ2匹を使った「カニ丼」。
県外でも知られた店のようだ。店内は割と広い。