尖閣と日米関係―『新日本学』第19号より(4) |
拓殖大学日本文化研究所の季刊『新日本学』第19号(2010年12月20日発行)に寄せた拙稿「尖閣と日米関係」から、第4節を以下に引いておく。
「尖閣には絶滅寸前のモグラがいる。実態調査の上陸許可を求める」(石原伸晃自民党幹事長)、「自民党政権で『原則として何人も上陸を認めない』という方針を定めた。菅内閣も踏襲している」(仙谷由人官房長官)という衆院予算委におけるやり取り、およびその後の民主・自民両党執行部の沈黙は、現在の両党幹部層の芯の弱さ、不見識を示すものだと思う。
第1、第2、第3節は下記エントリにある。
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/2085075/
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/2088252/
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/2102844/
尖閣と日米関係
島田洋一(福井県立大学教授、国家基本問題研究所企画委員)
4.実効支配をめぐる攻防
石原慎太郎は、先に触れたコラムの中でアメリカへの不信を語っている。
過熱の度を増しつつある尖閣を巡る事態の中で、これがもし火を吹いた時、日本が自衛のための軍事的行動に出た際、はたしてアメリカが共同しての行動に出るかは極めて危うい話だ。その折の当の相手は経済、軍事に関して膨張著しい中国だから、衰退著しい今日のアメリカがモンデールの言と同じ姿勢をとるだろうことはまず百パーセントに近いことだろう。
その石原に米側で同調するのは、皮肉なことに、かつてモンデール発言を記事にした、リベラル派のニューヨーク・タイムズ記者ニコラス・クリストフである。クリストフは、尖閣の領有権については、「自分の感触」では中国にやや分があるとしつつ、大胆な予測を提示している(ニューヨーク・タイムズ記者ブログ「釣魚島を望む」、9月10日)。特に根拠は示していない。
現実には、アメリカが、不毛の岩礁に関する条約上の義務を果たす可能性はゼロである。おそらく中国のものと思われるいくつかの島をめぐり、中国と核対決の危険を冒すことなどできない。
もっともクリストフは日本側の領有権主張根拠も詳しく紹介しており、その点は一応フェアである。
結局、問題となるのは日本政府の姿勢といえよう。外務省作成の「尖閣諸島に関するQ&A」最新版を見ると、「日本は尖閣諸島を有効に支配しているとのことですが、具体例を教えてください」との質問が設けられている。それに対する答は以下の通りである(施政権返還後の事例)。
(1)警備・取締りの実施(例:領海内で違法操業を行う外国漁船の取締り)。
(2)土地所有者による固定資産税の納付(民有地である魚釣島、久場島等)。
(3)国有地としての管理(国有地である大正島等)。
(4)政府及び沖縄県による調査等―例:沖縄開発庁による利用開発調査〈仮設へリポートの設置等〉(1979年)、環境庁によるアホウドリ調査の委託(1994年)、沖縄県による漁場調査(1981年)。
(1)は、菅政権が中国政府の圧力に屈し、違法操業かつ危険行為に出た中国人船長を釈放することで、大きくぐらついた。
(4)については、掲げてある最新事例が16年前の話というのでは、逆に実効支配の稀薄を印象づけることにもなりかねない。
10月12日、衆院予算委において、「尖閣には絶滅寸前のモグラがいる。実態調査の上陸許可を求める」と質問した石原伸晃自民党幹事長に対し、仙谷由人官房長官は「自民党政権で『原則として何人も上陸を認めない』という方針を定めた。菅内閣も踏襲している。弱腰外交という人がいるが、『柳腰』というしたたかで強い腰の入れ方もある」などとはぐらかし、実効支配の強化に真面目に取り組む姿勢を見せなかった。
今後中国は、日米安保発動の要件となる「武力攻撃」以外のあらゆる手段を動員して日本の実効支配を切り崩すべく動いてくるだろう。
また仮に武力攻撃があっても、日本が手をこまねいているなら、米軍が反撃行動を取る可能性は高くない。
特に、日本政府が沖縄の米軍普天間基地移設をめぐる合意を事実上反故にし、米軍再編・再配置計画の障害となりつづける中では、「そんな国の、自ら守る意思もない離島のために、なぜわが息子、娘の命を危険にさらさねばならないのか」といった声も、米軍兵士家族の間から起こってくるであろう。
2003年6月2日、ソウルを訪れたウォルフォウィッツ米国防副長官は、当時盧武鉉政権下で揺らいでいた米韓同盟について次のように述べている。
韓国軍を動かすに当たり、究極的判断を下すのが韓国民であるのと同様、アメリカ国民においても、米軍のプランが健全で、常に更新されているとの確信があって初めて、自分の息子や娘が韓国防衛に関わるのを強く支持することができる。……「仕掛け線」といった時代遅れの概念あるいはキャッチ・フレーズは乗り越えねばならない。われわれの対韓コミットメントを保証する仕掛け線が、米軍兵士が何人、半島のどこに配置されているかに関わるといった発想はまったく誤りである。侵略を受ければ、われわれは、米韓一体となった、即座の破滅的に強力な反応を示す。真の仕掛け線は、われわれの相互防衛条約にある文言と精神であり、それが、同盟関係の実体と強い軍事力によって支えられているということだ。
同じことは日米同盟にも当てはまる。米軍艦船につねに尖閣周辺で遊弋してもらえば抑止力が保てるのでは、といった都合のよい「案」も聞かれるが、甘すぎる話である。
(つづく)
門の側面部分
反対側から望む
門の間から見えていた建造物
インドで最も怖いのは狂犬病、イヌには気をつけろ、と言われたが、至るところイヌが寝転んでいる。幸い、危険を感じる場面はなかったが…。