ダニエル・シルバの国際テロ小説『メッセンジャー』 |
ダニエル・シルバの国際テロ小説『メッセンジャー』を読んだ(Daniel Silva, The Messenger, 2006)。
イスラエル情報部員ガブリエル・アロンを主人公とするシリーズの一冊である。
イスラエルの人口は約740万人、面積は外務省「各国・地域情勢」によれば次の通り。
イスラエルの面積は、2.2万平方キロメートル(日本の四国程度)(注1)
……
(注1)数字はイスラエルが併合した東エルサレム及びゴラン高原を含むが、右併合は日本を含め国際的には承認されていない。
ちなみに、イスラエルは男女とも兵役があり、原則として、男子は3年、女子は19~24カ月となっている(更に予備役あり)。
小説の冒頭、イスラエルの元情報部長官(現在は首相の特別顧問)が語る。
世界のユダヤ人の半分近くがこの小さな細長い土地に住んでいる。小型の核爆弾1発、それで充分、事が足りる。アメリカなら生き残れるだろう。ロシアなら気付かない程度かも知れない。しかし、われわれは?
テルアビブに爆弾1発で、人口の4分の1、おそらくそれ以上が死ぬはずだ。
つづいて元長官とアロンの会話がある。
「わが情報部(the Office)は、本来の性格を保持し続けねばならない」
「狂気?」
「勇敢」、シャムロンが応じた。「大胆」
(原文)
“We want the Office to retain its original character.”
“Insanity?”
“Boldness,” countered Shamron. “Audacity.”
最初のテロは、法皇はじめ多くが集うバチカンの聖堂(Basilica)で起こる。サウジ王家につながるテロリスト・グループの自爆テロ、ロケット砲攻撃によって、聖堂は破壊され、700人以上が死亡する。法皇は危うく難を逃れる。
サウジ・マネーに浸透されたワシントンの政界、官界では大胆なカウンター・テロ対策が取れない〈注1〉。
そこで、米大統領は、秘かにCIA幹部に命じてアロンをホワイトハウスに呼び、暗い駐車場の一角で、テロ・グループの処理をイスラエル情報部に依頼する。
このあたりの進行はやや強引だが、読む前から予想していたことなので、あまりこだわらず先へ進む。
テロ・グループのリーダーは、元サウジ情報部(General Intelligence Department, GID)の作戦部門幹部で、現在、サウジ政府も出資する国際企業体のCEOに事実上かくまわれ、資金面・移動面で便宜を受けている。
ある若い美術史家のアメリカ人女性をこのCEO(印象派絵画の蒐集家でもある)の側近グループに入り込ませ、テロリストの存在と動きを確認した上で暗殺、というのがアロンらの作戦になる。
女性は、9.11テロ(テロ実行犯の多くがサウジ国籍)とサウジの関係についてどう思うかとCEO周辺から聞かれた際には、こう答えるようレクチャーを受ける。
オサマはあなたの国と私たちの国の間にくさびを打ち込むべく、実行犯にサウジ人を選んだ。彼は、アメリカ同様、サウジ王家にも宣戦布告してきた。われわれは、アル・カイダとの戦いにおいて同志であり、敵対関係にはない。
しかし、テロリストは女性がスパイだと気付き、暗殺寸前に逃亡、女性はCEOの警護陣(いずれもサウジ情報部出身)の拷問に晒され、背後関係を追及される展開となる。
イスラム・ファシストたちから見れば、アロンは、札付きの「パレスチナ人殺し」(a murderer of Palestinians)である。
女性は顔を殴られ、「素直にしゃべれば楽に死なせてやる。ウソに固執するなら、お前のこの世最後の数時間は生き地獄になる(If you persist in these lies, your last hours on earth will be a living hell.)」と告げられる。
結局、アロンのチームが突入して女性を奪回、テロリスト・リーダーとCEO両方の爆殺にも成功する。
その間、再びバチカンを舞台に米大統領暗殺未遂事件なども起こる。が、全体として、筋立てに特に意外な展開はない。
名作とは言い難いが、部分的に面白いやりとりはあった。
〈注1〉あるCIAオフィサーの発言(p.373)。
“This town is awash with Saudi money. It pours into the think tanks and the law firms. Hell, the lobbyists dine out on staff. The Saudis have even managed to devise a system for bribing us while we’re still in office. Everyone knows that if they look out for the al-Saud while they’re working for Club Fed, the al-Saud will look out for them when they return to the public sector.”