惠岡隆一レポート38 「米保守派が追及するキム牧師拉致」 |
惠岡隆一レポート第38号を執筆した。
日本政策研究センターのサイトに掲載される(全バックナンバーも)が、ここにも載せておく。
朝鮮半島研究プロジェクト通信
平成20(2008)年6月23日
【恵岡隆一レポート№38】
米保守派が追及するキム牧師拉致
◆注目が集まる牧師拉致事件
米有力紙『ワシントン・ポスト』が、6月19日付で、米国永住権をもつ牧師(キム・ドンシク師)が脱北者救援活動中に、北朝鮮工作員に拉致された事件を大きく取り上げた。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/06/18/AR2008061802718.html
保守派に人望の厚いサム・ブラウンバック上院議員(共和党)らが、この一件で、クリストファー・ヒル氏の「ウソ」を徹底追及する構えを見せており、「テロ指定」解除問題と絡んで、成り行きが注目される
なお、2005年1月、牧師の家族が住むイリノイ州選出の議員団が、連名で北の国連大使に書簡を送り、キム・ドンシク事件が解明されない限り、自分たちは北の「テロ指定」解除を支持しないと宣言している。
これに、バラク・オバマも署名していることが、ここへ来て同事件が注目される大きな要因となっている。
『ポスト』の取材に対し、オバマ陣営は、今ではオバマ議員は、一個人の問題に焦点を当てて合意達成を妨げたくはないと考えており、牧師拉致事件は「テロ指定」以外の制裁とリンクさせたい、などと答えたという。
◆ヒルの「書簡」無視に憤るブラウンバック
2007年11月15日正午から、拉致議連・家族会・救う会訪米団(平沼赳夫団長)が、国務省でヒル国務次官補と面会した際、キム・ドンシク師の夫人が書いた嘆願書を手渡した。その模様について、私も『ポスト』の記者からインタビューを受けた。記事から引用しておく。
ヒルと日本の議員との会談に同席した日本の教授島田洋一は、ヒルに書簡を渡す際、「拉致問題は、日朝の二国間問題ではなく国際的問題であり、アメリカの永住権保持者も被害に遭っていると強調した」と述べた。それに対し、ヒルからコメントはなかったという。
特にコメントはなかったが、キム・ドンシク師の件が気に掛かっていれば、夫人からの書簡は多少なりとも印象に残るはずだ。
しかし、『ポスト』によれば、ヒル氏側は、夫人の書簡を受け取った記憶はないと述べているらしい。
実は、同日午前10時半から、サム・ブラウンバック上院議員と面会した際、訪米団に同行した夫人が書簡のコピーを同議員にも渡している(ヒル氏との会談には夫人は同席せず)。
議員はスタッフに指示し、同日午後、ヒル氏との面談を設定して、夫人の書簡を手渡しつつ、然るべき対処を促したという。
ところが、関係者の証言によれば、ヒル氏は、それ以前も以後も、米朝協議の場で、この事件の解決を一度も北に迫っていない。
『ポスト』の記事が出た直後、ブラウンバック事務所から連絡があり、当日の一連の流れの再確認を求められた。
同議員は、自分も直接関与したこの件を、国務省がまったく無視してきたのみならず、米国の上院議員および同盟国日本の議員団から二度同じ書簡を受け取っていながら記憶にないと「ウソ」をつく態度に、強い憤りを覚えており、一戦交えるべくスタッフに準備を命じたという。
なお、ヒル氏の腹心キャスリン・スティーブンス(東アジア・太平洋問題担当筆頭国務次官補代理)が、大統領によって駐韓大使に指名されたものの、ブラウンバックの異議で、上院の承認手続きが止まったままになっている。
同議員のスタッフによると、拉致問題への対応が不真面目というのを、異議の大きな理由に挙げているという。(島田洋一)