かつてあった「合同調査」案という茶番 |
前エントリの補足として、2004年10月に発表した報告書(東京財団研究プロジェクト)から、関連する拙稿の一節を引いておきたい。
全文は、日本財団の下記サイトに載っている。
http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2004/00304/contents/0004.htm
(前略)
安否未確認の拉致被害者(北は「死亡」あるいは「未入国」と主張)に関し、外務省の田中(均)・藪中訪朝団が北に打診したという日朝「合同調査委員会」は、拉致問題をうやむやに葬ろうという北の陰謀に加担する以外、何の積極的効果も期待できない代物である。
外務省には、過去、コメ支援に関連し、配布状況の調査と称して、同省職員を北朝鮮に派遣し、相手の案内する場所のみを見て回り、保育所で手渡された日本製コメ袋を記者会見の場でわざとらしく掲げて見せるなど、北の隠蔽工作に協力してきた「合同調査」の悪しき実績がある。
無為無策という批判を免れるため見せかけの進展を得たい首相官邸、外務省幹部と、日本側調査係を「事故現場」や「自殺現場」に案内し、当時の状況を知る「証人」や「目撃者」に会わせるなど「協力姿勢」を見せて、問題をごまかし切ろうという北朝鮮当局、その両者の思惑が隠微に絡み合っての「合同茶番劇」を許してはならない。
意味のある調査を行うには、「入って調べる」ではまったく不十分であり、「出して調べる」にまで踏み込む必要がある。
ここでも安保理決議1441号(対イラク。中・露・シリアも賛成し、2002年11月8日、全会一致で成立)が参考になる。
「安保理は、以下のように決定する。イラクは、国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)と国際原子力機関(IAEA)に対し、すべてのイラク当局者その他に対する即時の、妨害のない、無制限の、そして内々に行われるアクセスを許さねばならない。・・・さらに、UNMOVICとIAEAは、聴取を受けるイラク人が、家族ともどもイラク国外に出られ、かつ、これら機関のみの判断に基づき、イラク政府当局者の同席なしに聴取を受けられるよう取り計らえるものとする」
北朝鮮の核兵器開発についても、「完全かつ検証可能、不可逆的な廃棄」を実現するためには、当然同じ地点まで踏み込む必要がある。
また、この規定は「拉致査察」にも準用されねばならない。
すなわち、日本政府は、拉致に関わり、また拉致被害者を管理する立場にあった北朝鮮の人間を、家族ともども国外に出させて事情聴取させるよう北に要求すべきである。北が受け入れなければ、その分締め付けを強めていくと宣言すればよい。
繰り返すが、安保理決議1441号は全会一致になるものである。日本が、その規定を準用し、北朝鮮当局者の国外聴取を要求しても、何ら国際常識に反した話とはならない。あとは政府の意志の問題である。(島田洋一)