訪米報告(2) |
下記は、「救う会全国協議会ニュース」用に書いた原稿だが、若干補訂の上、ここにも載せておく。
■訪米報告(2)
◇北朝鮮の「核申告」とテロ指定解除問題
昨年11月の拉致議連・家族会・救う会訪米団(平沼訪米団)の時と比べ、今回、ワシントンの空気は、明らかにクリストファー・ヒル氏により厳しい方向に変わっていた。
「クリス・ヒルは、われわれにブリーフィングするたび、北に対するハードルが下がっている。これはまったく受け入れがたいことだ」という、訪米団を前にしたイリアナ・ロスレーティネン議員(下院外交委員会・共和党筆頭理事)の発言が、事情を端的に物語っている。
また、何人ものベテラン議会スタッフが、「ライス・ヒルが最もショックを受けた文章はこれだろう」と指摘したワシントン・ポスト掲載の論説がある。
「余りにしばしば北朝鮮に屈服して」(Yielding To N. Korea Too Often)と題したウィンストン・ロード、レスリー・ゲルプ連名の一文(4月26日付)で、前者はクリントン政権、後者はカーター政権において、ヒル氏同様、国務次官補をつとめた人である。
自ら、「頑固な保守派とはほとんど誰からも見られない」という穏健派の二人が、「妥協は(場合によって)必要だが、そのことと、すでに妥協した内容を相手が破るのを許すこととは違う」、譲歩を重ね、失態を重ねつつ、なお、「われわれのアジアにおける最も緊密な同盟国・日本の猛反対にもかかわらず」北のテロ支援国指定を解除しようという外交は到底支持しがたいといった議論を展開している。
中間派やリベラル系の間でも、「クリス・ヒルは、信用してはならない相手に対し、余りに譲りすぎ」という意見が強まってきたことは間違いない。
ただし、上院外交委員長のバイデン議員(民主党)らは、基本的にヒル氏を擁護する姿勢を崩しておらず、共和党でも、国務省に近いとされるルーガー議員(上院外交委員会・共和党筆頭理事)らからは、ライス・ヒル路線を明確に批判する声は聞こえてこない。
ニコラス・エバースタットAEI研究員は、われわれとの懇談で、「もし大統領が民主党なら、今頃、共和党議員は一体となって、対北軟弱外交を猛然と攻め立てていたろう。そうなっていないのは、『政治』のせいだ」と慨嘆していた。
ある元米政府高官は、「ライス・ヒル路線で米朝合作の妥協的な核申告書をまとめ、それをブッシュ大統領が承認する可能性は、目下30%くらい。ただし、日本が反対する度合いに応じて可能性は下がっていく」という言い方をした。
30%というのは、野球にたとえれば3割バッターを打席に迎えている状態だ。数字的にはアウトを取れる可能性の方が高いが、甘い球を投げれば、逆転タイムリーを食らうことになろう。日本は、強い姿勢を維持し、米朝野合にはっきり反対せねばならない。
◇日本も「核申告」の中身追及を
政府・議会方面に広くコネクションをもつある専門家は、オフレコを条件に次のように語った。
核問題で進展が見られるのに拉致にこだわる日本が足を引っ張っている、という国務省が描きたがる構図に乗せられない注意が必要だ。日本も、核申告の中身を問題にし、「完全な申告」からほど遠いという議論を集中的に展開するのがよいのではないか。今の局面では、その方が、アメリカに対してもインパクトがある。
ボルトン前国連大使とも、同様の観点から、日米双方において何に力点を置くべきかについて意見交換した。
これら元政府高官や専門家との議論を踏まえ、5月2日に行ったクリストファー・ヒル氏との会談では、まず冒頭、松原仁議員(拉致議連事務局長代理)が、「核計画の完全申告というが、きわめて重要な核爆弾製造工場の場所について、情報を得ているのか」と単刀直入に切り込んだ。
ヒル氏は何度か、微妙に話題をそらそうとしたが、松原議員が繰り返し追及した結果、最終的に、「いや、得ていない。それは問題点の一つだ」(“No. That’s a problem.”)と認めた。
非常に重要なポイントであり、国務省を出た直後の記者会見でメディアに紹介するとともに、米側関係者にも一連の経緯を伝えた。
数日後、ボルトン氏が『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8日付)に寄せた一文に次のような記述がある。
(ブッシュ政権は、北朝鮮のプルトニウムについて、抽出量に関する曖昧な「説明」のみでよしとする姿勢を見せており)、何発のプルトニウム爆弾が存在するのか、隠されたプルトニウム関連施設が北の広大な地下施設のどこかにあるのではないか、北の核爆弾製造の実態は、といった点への関心が、政権のブリーフィングからは、ほとんどまったく窺えない。
ボルトン・オフィスから救う会(私宛て)に、直ちに電子メールで論文のコピーが送られてきたのを見ても、松原議員がヒル氏から重要な言質を取ったことが、米側有志にインパクトを与えたことは間違いない(他にも多くの関係者から、国務省でのやりとりを評価するコメントが来ている)。
なお、松原議員は帰国後、5月7日の衆議院外務委員会において、「訪米団との会談の場でヒル氏が、北の核爆弾工場の場所をつかんでいないと認めた。そのことを日本政府は米側から聞いていたか」と質している。
それに対し高村外相が「聞いていたかどうかと言われると、聞いていない。ただし、最終的にそういうものが出てこない限り、私としては完全な核申告ではないと思っている」との趣旨の答弁を行った。
松原議員はここでも、大変大事な発言を引き出したと言える。
いま米国務省は、「完全な核申告」を、「抽出したプルトニウムの量」という一点に矮小化し、申告内容が「正確」であるかどうかの検証も、原子炉運転記録の書類審査で事足りるとし、テロ支援国指定の解除に進もうとしている。
核爆弾工場の場所、製造した核爆弾の数量および保存場所などは、当然、「完全な申告」に含まれねばならず、「正確」かどうかの検証には、現場への立ち入り調査が不可欠だ。
日本政府は、今後も高村答弁の線に立ち、不十分な米朝合意が提示された場合には、はっきり拒否せねばならない。
もし半端な「合意」に六者協議の場で賛成を強要されるようなら、六者の場を去るしかないだろう。
ワシントンでも、多くの米側関係者と、ありうべき日本の対応が話題になった。
ボルトン氏は、「私は、アメリカが六者協議から脱退すべきだと思っているので、日本が脱退しても何ら反対しない」と述べた後、アメリカでは今や、対北政策について意見が大きく分裂している、いかなる形であれ米側が一致した反応を日本に示すことはあり得ないと語った。
この後段部分については、他の多くの人々も同意見だった。