アメリカの対キューバ制裁----アメリカはどう動くか(1) |
先頃、キューバのフィデル・カストロが正式に一線から退いた。
米政府は、キューバへの制裁を続けるとの姿勢を取っている。
対キューバ政策は、大票田フロリダ州(キューバ系移民が多い)の行方を左右しかねないだけに、今後、大統領選で争点の一つになるかも知れない。
ちなみに、2005年、ジョン・ボルトンの国連大使就任に最も強く反対したのがクリス・ドッド上院議員(民主党。親カストロ派の代表格。2008年大統領選に名乗りを上げていたが、ほとんど支持が集まらず撤退)だったが、反対理由は、ボルトンの対キューバ強硬姿勢への反感だった。
以下、米国のキューバ制裁に関する旧稿を転載しておく。北朝鮮への追加制裁という観点から、参考になる点があるように思う。
『現代コリア』2004年9月号
アメリカはどう動くか(1)
島田洋一(福井県立大学教授)
(前略)
キューバに対する送金・訪問規制の強化
最後に、2004年5月6日、ホワイトハウスが発表し、6月30日から実施に移された対キューバ送金・親族訪問規制強化策に触れておきたい。北朝鮮への制裁を考えるに当たって参考になる点が、少なからずある。
規制強化の目的は、「過酷で野蛮な独裁政権に終止符を打つ」こと。
そのため、「米国の人道政策がカストロ政権に不正に利用されている事態に対抗」し、「カストロ体制への資金の流れを断つ」とされている。テロ支援国家締め付け戦略の一環である。
重要な具体策について列挙してみよう。
・学生によるキューバ訪問が教育名目で濫用されている実態に鑑み、規制を強める。すなわち、大学生による「短期研修」は、10週間以上のものについてのみ認め、それより短いものは認めない。高校生については、一切認めない。
・キューバへの送金や小包の届け先を肉親に限定する。キューバの当局者や共産党員への送金、小包発送は禁止する。
・違法に米国からカネを持ち出す「運び屋」ネットワークへの取り締まり、おとり捜査を強化する。
・キューバへの親族訪問は3年に1回のみとし、訪問先も肉親(祖父母、孫、両親、兄弟、配偶者、子供)に限る。
・親族訪問の費用として携行を許される金額(移動費、食費および宿泊費)を、従来の一日当たり164ドル(約18,000円)から一日当たり50ドル(約5,500円)に引き下げる(滞在許可期間は、最長14日間まで)。
・キューバ政府の隠れ蓑会社を無力化する。
・特殊機器を備えた航空機(C-130)によるキューバ向けラジオ放送の強化。
・キューバに寄港するヨット・レースなどを認めない。
従来、親族訪問は年に1回認められており、滞在期間に制限はなかった。いとこや叔母に対する訪問でも認められた。
キューバ向けに送られる品物も、今後、食糧・医薬品・ラジオ・電池に限られることになった。
送金は、18歳以上の米国人なら誰でも、年間1,200ドルまで、キューバ向けに送られたのを、キューバ内に肉親を有する者だけと限定されることになった。
今回の規制強化で最も影響を受けるのは、米側では、もちろんキューバ系アメリカ人である。
大統領選で今回も激戦が予想されるフロリダ州のキューバ系アメリカ人有権者(選挙人登録をしている人)は約60万人、大体において反カストロ色が強く、2000年大統領選挙の際には、8割がブッシュに投票したとされる。
フロリダ南部に拠点を置く亡命キューバ人グループの間では、反応は割れているようだ。
AP通信、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなどが伝えるキューバ系アメリカ人社会の声を簡単に紹介しておく。
批判の声で分かりやすいのは、「キューバに行かねばならない。母が死にかけている」、「倫理的に見てどうか。ほかの規制強化措置には賛成するが、家族の価値を重視するブッシュ大統領が、亡命キューバ人と本国人の家族関係に影響する措置を執るのは問題だ」(大手の「キューバ系米人全米財団」幹事)といったものだ。
賛成の声としては、「問題なのは、1,200万人のキューバ人にとっての自由であり、キューバ旅行の余裕をもつエリートの自由ではない」(強硬派キューバ人亡命グループ「キューバ自由委員会」代表)、「カストロを除去する唯一の方法は締め上げることだ。カストロがいまだに居座っている最大の理由は、彼が追い出したキューバ人が、彼にドルを送っていることにある」
なお、アメリカは1962年以来、キューバに対し一般的な制裁を加えている。今回の措置は、いわば抜け穴をふさぐ作業である。
規制強化の急先鋒であったキューバ系米人共和党議員団の一人、リンカーン・ディアス=バラート下院議員は、次のように述べている。
「キューバ系米人は、政治難民であり、キューバに行こうなど考えるべきでない。世界中どこでも、亡命者は、政治条件が変わるまで、本国に戻ることなどできないものだ」
従来夏場になると、ハバナの港に、少なくとも40隻は、常時、アメリカ人所有の船が繋留されていたといわれるが、今年六月以降はゼロになったという。その分キューバ側の収入も減った。
今後もこの問題で、何か興味深い展開があれば、報告するつもりである。