【正論】共和党主導の下院がもたらすもの |
産経 2022/12/01
【正論】共和党主導の下院がもたらすもの
島田洋一(福井県立大学教授)
中国への戦略的対応
中国の習近平政権の非合理な「ゼロコロナ」都市封鎖政策に対し、市民の抗議活動が広がっている。自由主義圏の政治家なら、中国共産党(以下中共)独裁体制を掘り崩すべく、戦略的に対応していかねばならない。
かつてレーガン米大統領は「我々が勝つ、彼らが負ける。それが私の冷戦戦略だ」を合言葉にまずソ連が張り巡らせた産業スパイ網の壊滅に本腰を入れた。最先端技術を渡さないためである。カーター前政権期には対共産圏輸出規制違反の起訴件数は年間2、3件だったがレーガン政権発足後、急上昇し、年間1000件を超えるに至っている。約500倍である。
こうした厳格な法執行とともに、情報機関によるカウンター攻撃も実施している。一定時間経過後に誤作動を起こすウイルス入りハイテク部品をソ連スパイに「つかませる」などの秘密作戦である。
レーガン政権はKGB内部から得た極秘リストで、ソ連がいかなるテクノロジーを狙っているかを把握していた。例えば1982年夏のシベリアの天然ガスパイプライン大爆発は圧力調整装置に仕込んだ米製ウイルスによる「戦果」だったという(なお極秘リストの提供者ウラジミール・ベトロフKGB大佐は亡命直前にソ連当局に拘束され、処刑された。冷戦期の隠れた英雄の一人である)。
今年10月、米政府は、人工知能(AI)、スパコンに焦点を当て、先端半導体と関連装置の対中輸出を徹底規制する方針を打ち出した。問題はそれが厳格に執行されるかである。特に安全保障分野において、バイデン政権は、立派な言葉は発するが実行が伴わないことに定評がある。
トランプ政権は、知財窃取をやめない習氏に怒りを高めた大統領の指示で、ポッティンジャー安保副補佐官(中国語に堪能)がハイテク分野の対中規制やスパイ防止の司令塔となる省庁横断チームを作り、相当な成果を挙げた。商務省令はその中心的手段だった。
キーパーソンの一人は
FBIと司法省の防諜部門も、トランプ氏の命を受けて、相当極端な対中シフトを敷いた。中共に開発情報を流し資金を得ていたナノテクノロジーの世界的権威(ハーバード大教授)の逮捕・起訴などはその一例である。バイデン政権に代わってこうした法執行体制は、はっきり緩んだ。
国防総省の文書などでは「中国の脅威」の文字が躍るが、「気候変動こそが安全保障上最大の脅威」という政権中枢部の誤った国際認識により、脱炭素で中共に「協力」を求める必要上、他分野では譲歩するという姿勢が随所に顕著だった。
しかし中間選挙で共和党が下院の多数を得た結果、来年からやや状況が変わりそうである。キーパーソンの一人が下院外交委員長に就任予定のマイケル・マッコール議員。2004年初当選のベテランで、米政界屈指の対中強硬論者として知られる。北京五輪ボイコット法案や、台湾の防衛体制および国際的地位の強化を目指す台湾政策法案の下院側提出者も同氏だった。かねて、バイデン政権の商務省の輸出規制対中適用が「臆病すぎる」と批判してきたマッコール氏は、先述のAI、スパコンに関する同政権の新規制方針について次のように述べている。
「遅きに失したが、正しい方向での第一歩だ。商務省産業安全保障局(BIS)がこの規制を最大限厳格に執行するなら、中国共産党の戦略目標の核心に打撃を与えることになる。我々は法的権限に基づき、BISの許可、不許可の実態に関し完全に透明性ある報告を求める。執行が甘ければ意味がない」
対中癒着の構造にメスを
米国のプロ経営者の対中姿勢にはあるパターンが見られる。短期的な株価上昇を勲章に次々会社を渡り歩くため、その時々に所属する企業の長期的利益を損なっても、中共の求めに応じて知的財産を提供し、当面の利益を上げようとする。そのため米政府による輸出規制には基本的に反対する。しかしもはや流れは動かせないと見るや、自社のみが損を出さないよう第三国の企業も含め国際的な規制強化を求める立場に転じる。
この2年近く、与党民主党が支配する議会は、バイデン政権となれ合う風があった。野党共和党に主導権の移った下院が、厳しく商務省の政策執行を監視するならば、流れが決まり、その影響は日本企業にも及んでくるだろう。
マッコール氏は、大統領の次男ハンター氏に絡むバイデン家と中共の癒着についても徹底追及するとしている。ハンター氏は、薬物中毒で軍を放逐されて以来、酒や女性にまつわる数多くの問題を抱えつつ、親の七光りで企業顧問などの地位を得、財を成してきた。その過程でバイデン副大統領(当時)と共に訪中し、中国企業とも関係を持った。
この機会に日米とも「ゆすり」の種を絶つべく、政官財学界にわたる対中癒着の構造に徹底的にメスを入れるべきだろう。(しまだ よういち)