新たな情報戦の気配
クリストファー・ヒル氏が訪朝した。これを契機に北は、アメリカ経由も含め、日本に対し新たな情報戦を仕掛けてくるだろう。国内にもそれに呼応して動く勢力が出てくるはずだ。
下記は、『諸君!』2006年9月号に掲載された座談会記録(出席者:櫻井よしこ、横田滋、横田早紀江、島田洋一)のうち、主に情報戦に関する私の発言部分の抜粋である。
島田 ……(横田めぐみさんの夫だったとされる金英男氏が、平壌で母や妹と面談した際に語った、めぐみさんが幼少時に負った頭のケガの後遺症に苦しんでいたという話は)精神疾患そして自殺というストーリーを維持しつつ、「めぐみさんが変調をきたした原因は、北朝鮮の拉致にあるのではなく、両親の不注意にあるのだ」と自らの犯罪を棚に上げ、あろうことか横田夫妻に責任を転嫁しようという卑劣きわまりない発想といえます。
金英男氏やめぐみさんら拉致被害者は、みな北で幸福に暮らしてきたというフィクションと、めぐみさんが自殺したというフィクションの間に整合性を保つため、幼少時のケガの後遺症という第三のフィクションを持ち込んできたということでしょう。
……
朝鮮総聯は、万景峰号は祖国と日本を結ぶ唯一の「人道の船」だとして、入港禁止措置を非難していますが、笑止千万な議論です。 総聯は、幹部に逆らったり金正日を批判したりした人は船に乗せないという形で、万景峰号を在日朝鮮人社会統制の手段に使ってきました。
それに「人道の船」というなら、総聯が北に送り込んで人質状態に置かれている元在日の人々を乗せて帰ってくるべきで、そうすれば、日本にいる家族が各段階でのピンハネに耐えつつ、日用品を抱えて「祖国訪問」する必要もなくなるわけです。
ともかく今後は、「特定船舶入港禁止法」をより踏み込んで適用し、およそ「人道」とは関係ない北朝鮮籍の物資運搬船すべてを入港禁止にすべきです。
さらに同法では、船籍のいかんを問わず北朝鮮の港に立ち寄った船をすべて入港禁止にもできます。たとえば中国の船や日本の船を借りての物資調達を阻止できるわけです。
違反した船長は「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する」という罰則規定もあります。早く全面発動へと移行すべきでしょう。
……
アメリカの金融制裁は、中国の銀行をターゲットに発動されました。そこがポイントだといえます。バンコ・デルタ・アジアは、マカオで治外法権的に暗躍してきた金正日直属の「朝光貿易公司」とかねてより関係が深く、制裁対象として分かりやすい存在ですが、米政府は他にも、中国四大銀行の一つ「中国銀行」も特別監視対象であると意図的リークを行うなどしてきました。
中共政権は、北朝鮮の粗暴な振る舞いに手を焼いている風を装いつつ、裏では様々に支えて回るというダブル・ゲームを演じてきましたが、今後もそのパターンは続くものと見ておく必要があります。
なお、韓国の盧武鉉大統領が7月11日、与党議員等との晩餐会の席上、アメリカの金融制裁を「先斬後啓」(軍律に違反した兵士をまず処刑し、その後で王に報告する)と表現し、「北朝鮮が偽ドル札を製造したという証拠を出しもせず、帳簿を見せろというようなものだ」と批判したと報道され、波紋を呼びました。
未だにナチスがガス室を作った証拠はないと主張する「修正主義者」がいますが、盧武鉉もどうやらその類のようです。
……
アメリカが2004年10月に成立させた「北朝鮮人権法」は、その半分近くが、北朝鮮難民を強制送還しつづける中共政権への非難です。日本でも今年6月に「北朝鮮人権法」が通りました。
画期的なことで、関係者の労を多としますが、中共に対する批判が一言も入っていない点にやはりもの足りなさを感じます。中共に対しても言うべきことは言うという議員が徐々に増えてきているので、まあ今後に期待はできると思いますが。
私は、アメリカでは米共和党のレーガナイツ(レーガン派)が最も信頼できる勢力だと思っています。ロナルド・レーガンの政治理念に強く共鳴する人たちと緩やかに定義しておきますが、ブッシュ、チェイニーもそこに含まれるでしょう。
彼らは、自由主義と民主制を世界に浸透させることが、正義に立脚した平和につながるという信念の下、外交戦略を立てています。色々混乱もありますが、少なくとも、彼らをひとくくりに「ネオコン」と揶揄する機会主義的なリベラル派などよりは、はるかに信用できると思います。
……
近年、特に(北のミサイル連射を受けた)安保理決議の際に媚中派議員が見せた動きは、まさに“幇間外交”と呼ぶ他ないものでした。
親中派を自認する人ほど、こうした場合には日本の立場を強く主張し、親中派ですら制裁に本気なのかと北京に思わせねばならない。ところが早々と日本政府に妥協を促したり、安倍、麻生氏の失敗を密かに期待するかのごとく沈黙を守ったりと、何とも情けない対応ぶりでした。
民主党の小沢一郎党首も、重要な時期に北京にいながら、「安保理の枠内で日本も行動すべき」などと第三者的発言に終始しました。
「安保理の枠」をどれだけ日本の主張に沿って広げるかでせめぎ合っている時に、「安保理の枠内で」としか言わないのでは当事者意識ゼロと言われても仕方ないでしょう。
……
『朝日新聞』は韓国政府と歩調を合わせ、「先制攻撃論 短兵急に反応するな」(7月12日)という社説を掲げて、「専守防衛を変更すれば、北朝鮮だけでなく、中国や韓国などの周辺国を刺激するのも避けられない。北朝鮮が最も恐れるのは米国の強大な軍事力だ。日本の安全にとって、最大の頼りはやはり米国の抑止力だろう。これを前提として、あくまで外交的な決着をはかるのが日本の戦略であるべきだ」などと諭しています。
米軍はもとより、中国軍も韓国軍も「敵基地攻撃能力」を持っていますが、それら他国のケースは不問に付し、日本が持つことだけは危険だという朝日らしい“日本脅威論”です。
しかも普段は諸悪の根源扱いしている「米国の強大な軍事力」を平和の騎士のごとく持ち上げる節操のなさもさすがです。
中共や盧武鉉一派が、日本の「敵基地攻撃能力」を脅威と感ずるなら、早く金正日体制を崩壊させるべく動けばよいわけで、そうしたメッセージを発する意味でも、早急に攻撃能力の整備に着手すべきですね。
……