【論点直言】外国人「住民投票」参加(島田洋一) |
【論点直言】外国人「住民投票」参加
中国の投票干渉を警戒しないのか 島田洋一氏
2021/12/11
外国人と日本人を区別せずに住民投票の投票権を認める東京都武蔵野市の条例案に対し、「外国人参政権に準ずるもので、憲法違反の疑いが強い」と批判が集まっている。住民投票は選挙と異なり法的拘束力はないが、原発問題などで国政を左右するケースもあり、「外国に利用される恐れがある」との声も。実際に、住民投票への外国の干渉はあり得るのか。国際政治や米国に詳しい福井県立大教授の島田洋一氏に話を聞いた。
(聞き手 菅原慎太郎)
米国で問題になっている選挙干渉、世論工作
選挙や投票に対する外国政府や諜報機関の工作活動は最近、国際政治でよく聞く話だ。外国人の投票を認める武蔵野市の住民投票条例案が、外国に利用され得ると批判されているが、非現実的な批判ではない。
米国では外国の選挙干渉が問題となっている。大統領選に絡みロシアが民主党有力者のメールを暴露した例が有名だが、中国についてもペンス前副大統領が対米世論工作を批判した。
中国は2010年の国防動員法で、戦時は在外の一般国民も政府の指示に従うよう義務付け、17年の国家情報法では平時でも国家の情報収集活動に協力するよう定めた。今の中国政府は在外の自国民も動員するようになっている。外国人投票権を認める条例案は、中国が自国民を投票に動員し日本の地方政治を左右できるようにするに等しい。
2008年の北京夏季五輪前には、日本国内でも多くの中国人が政治的な理由で動員される〝事件〟が実際に起きた。長野市で行われた聖火リレーで、中国のチベット弾圧に対する抗議活動に対抗し中国人留学生ら約5000人が集まったが、背後には当局の主導があったと、当時の朝日新聞も報じている。こうした動員が住民投票で行われても不思議ではない。
多くの善良な中国人はスパイや工作員ではないが、彼らも中国の当局に逆らえば、本国にいる家族が危険にさらされるため、従わざるを得ない立場だ。
米国でも、政治参加は国民の権利という考え方が支配的で、州レベル以上の参政権は国民に限られる。外国人参政権や投票権を認めようという運動もあり、身近な地域問題を扱う「タウンミーティング」で投票を認めるケースもあるが、大勢は違う。2001年に米中枢同時テロを経験した米国民は、航空機をハイジャックしたテロリストが米国内の航空学校で訓練を受けていたという事実を知り、善良な外国人の中に、反米的な意図を持つ組織のメンバーが潜んでいたという厳しい現実を痛感した。
外国人差別ではない。政治参加したいのであれば、米国に忠誠を誓って国籍を取得し、国民となるべきだという考え方なのだ。
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島田洋一(しまだ・よういち) 福井県立大教授。昭和32年生まれ。京都大大学院法学研究科博士課程修了。専門は国際関係論。同大助手などを経て現職。北朝鮮による拉致被害者の支援組織「救う会」副会長。近著に「アメリカ解体 自衛隊が単独で尖閣防衛をする日」(ビジネス社)。64歳。