解決済みの問題を「国際社会」に持ち出す危険—韓国との戦時徴用問題 |
下記記事について
日韓請求権協定で解決済みの賠償問題を蒸し返す韓国側の動きに対し、菅官房長官や岸田外相は、
(1)判決前の和解には応じない
(2)敗訴判決が確定し、韓国側が日本企業の資産差し押さえに出た場合は、日韓請求権協定に基づいて協議を呼びかける
(3)協議が不調に終わった場合は国際司法裁判所(ICJ)へ提訴する
—との方針を確認したという。
(1)については結構だが、(2)(3)には危険性がある。慎重に再検討すべきだろう。
まず(2)だが、日本から協議を呼び掛ければ、未解決の事案と認めた、との印象を与えかねない。韓国側は内外にそう宣伝するだろう。
(3)に関し、首相周辺は「国際法を無視するような振る舞いは国際社会からも批判が集まる」と自信を示しているそうだが、果たしてそうか。
国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)の裁判官たちが、日韓両国の提出した資料を偏見なく丹念に読み、法曹としての良心に照らして判断するとの前提に立つなら、確かに日本勝訴以外の結論は考えにくい。
が、仮にわれわれが国際司法裁判所の判事だとして、例えばグアテマラとホンジュラス間の70年前に遡る争訟を持ち込まれたとしよう。関係資料を積み上げれば双方合わせて1メートル以上にもなる。
果たして、これを真剣に読んで判決を下そうという気になるだろうか。しかも、白黒はっきり付けた場合、間違いなく負けた側からは恨まれる。労多くして、益するところは見えない。
おそらく、担当スタッフを呼び、「ざっと目を通して、双方痛み分けになるような調停案を考えてくれないか。私はこれからオランダ外相主催の夕食会があるので……」といった反応になるだろう。
痛み分けに終わるまだよい。
韓国側は、徴用工問題にとどまらず慰安婦問題も裁判の過程で持ち出し、心証を有利に傾けようとしよう。さらには両者の同時解決まで主張しかねない。
そして、高齢の元慰安婦らをハーグの裁判所前で座り込ませ、「正義の判決を。日本を罰しないなら、私たちを二度レイプするのと同じ」云々とアピールしよう。
日本敗訴なら勿論、痛み分けであっても、甚大な悪影響が懸念される。韓国の背後では中国共産党が虎視眈々と牙を研いでいる。
中共が、本格的な対日訴訟戦に乗り出せば、数兆円から数十兆円規模の「個人補償」という話になろう。
徴用工問題は解決済み、が日本の立場である以上(韓国政府も従来その立場だった)、協議や提訴で対応するのではなく、韓国が日本企業の資産差し押さえるなら、韓国側の対日資産没収などの制裁で対抗するのが筋だろう。
安倍首相の靖国神社参拝に関する「国際世論」を見ても、その無理解は明らかだ。「国際社会の良識」を当てにした協議や提訴は危うい。下記エントリ参照。
■韓国との関係—制裁と安保協力
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/3165806/
産経 2013.12.30
戦時徴用訴訟 和解を拒否 政府、韓国側に伝達
韓国での日本企業による戦時中の徴用に対する個人請求権訴訟について、日本政府が「和解に応じない」との方針を韓国側に伝えたことが29日、分かった。複数の日韓外交筋が明らかにした。韓国では韓国大法院(最高裁)で日本企業の敗訴が確定した場合「戦後賠償は解決済み」と定めた日韓請求権協定を一方的に破ることになるため和解を模索する動きがあった。日本側は「協定を空文化しかねない」と拒否する考えだ。
徴用工訴訟は、来年1月にも大法院で被告の新日鉄住金と三菱重工業に対する判決が出る見通しだ。昨年7月の高裁判決では両者への賠償が命じられ、大法院で覆る可能性は低いとみられている。
日韓両政府は7月以降、実務者が東京とソウルを往復し、最高裁判決が出た場合の対処方針を協議。日本側は敗訴判決が確定した場合「明確な国際法違反になる」と指摘してきた。
韓国側は「三権分立の原則から、政府は司法判断を尊重せざるを得ない」としながらも、政府間で一度結んだ協定を一方的に覆す行為を「国際社会の信用を損ないかねない」と懸念。日本企業が原告側に見舞金を支払うことなどで和解し、判決を回避できないかと暗に打診してきたという。
しかし日本側は「韓国側に金銭を支払えば、請求権協定の趣旨を日本側から否定しかねない」(外務省幹部)と反発。菅義偉官房長官や岸田文雄外相は、
(1)判決前の和解には応じない
(2)敗訴判決が確定し、韓国側が日本企業の資産差し押さえに出た場合は、日韓請求権協定に基づいて協議を呼びかける
(3)協議が不調に終わった場合は国際司法裁判所(ICJ)へ提訴する
−との方針を確認した。
韓国側にも複数の外交ルートを通じて伝えたという。
日本政府は、韓国最高裁での判決を控え、三菱重工業、新日鉄住金とも協議を重ねており、2企業の敗訴が確定しても賠償金を支払わないよう求めている。日韓関係は安倍晋三首相の靖国神社参拝で悪化しているが、首相周辺は「国際法を無視するような振る舞いは国際社会からも批判が集まる」として、韓国側への妥協は拒む考えだ。
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日韓請求権協定 昭和40年、日韓の国交正常化に合わせて結ばれた戦後賠償に関する2国間協定。日本が韓国に無償3億ドル、有償2億ドルの経済支援をすることで、両国間の請求権は「完全かつ最終的に解決された」と規定している。韓国政府は平成21年、徴用工の未払い賃金についても、「請求権協定で外交上解決済み」との見解を示している。