『正論』10月号に「レーガン保守と日本について」―国基研「日本再生への処方箋」⑤ |
本日、月刊『正論』の最新10月号が店頭に並んだようだ。
国家基本問題研究所と同誌の共同企画「日本再生への処方箋」シリーズ第五回は私が担当した。同企画は1年弱連載の後、単行本化の予定である。次回は遠藤浩一氏が執筆。
以下は拙稿の導入部分である。続きは同誌で一読頂ければ幸いである。
国基研&「正論」共同企画⑤
日本再生への処方箋~
レーガン保守と日本について
日本が価値観戦略を志向するとき、最も信頼できるパートナーは米国のレーガン保守である
国家基本問題研究所企画委員・福井県立大学教授 島田洋一
価値観戦略と「宥和の枢軸」
自由・民主・法の支配・人権といった理念(価値観)を蔑ろにし、国際秩序を脅かす全体主義政権にどう対処するか。その基本的姿勢によって、政策決定に影響力を持つ人々を、大きく政体変更(レジーム・チェンジ)派と平和共存派に分けられよう。
前者はしばしば後者を「宥和派(appeaser)」と呼び、後者は前者を「戦争屋(warmonger)」と呼ぶ。もちろん截然と二派に分かれるわけではなく、純粋な「宥和派」と純粋な「戦争屋」を両極端とする連続帯のどこかに各人が位置する構図となろう。
アメリカの政体変更派は、ソビエト帝国を崩壊に導いた故ロナルド・レーガン大統領にちなみ、自らを「レーガン保守」(Reagan conservative)と呼ぶ人々でもある。彼らは、国家安全保障に関し、「力を通じた平和」(peace through strength)や「私の冷戦戦略を言おう。我々が勝つ、彼らは負ける(We win. They lose.)」といったレーガンの言葉を好んで引く。
一方、アメリカの平和共存派の最大の拠点は国務省である。オバマ政権および与党民主党は国務省に寄り添う傾向が強く、新聞・テレビなどの主流メディアも平和共存派が優勢である。
目を日本に転ずれば、安倍晋三首相および同志として行動を共にしてきた人々は、米レーガン保守と最も親和性の高いグループといえよう。
安倍が今後、北朝鮮や中国の自由民主化、すなわち政体変更も視野に入れた「価値観戦略」(狭義の「外交」を越え、改憲・軍事・経済・エネルギー政策等も含む意味で「戦略」の語を用いる)を立て、揺るがず実行していくなら、将来「安倍保守」を自称する人々が現れるかも知れない。が、今は米レーガン保守に対応する日本側勢力を仮に「自由改憲保守」と呼んでおく。
日本が価値観戦略を進めるに当たり、アメリカのレーガン保守は最も信頼できるパートナーとなろう。ただ、彼らは現在権力の中枢からはずれている。政権復帰は、早くとも2016年の大統領選(の勝利)を経て、3年半後になる。
もっとも、下院では共和党が多数を占めている。憲法上衆議院の優越が規定された日本と異なり、予算審議では下院は上院と同等の権限を持つ。すなわち、レーガン派が拠点とする共和党は、下院を拠点に、特に予算面からオバマ政権の政策に影響力を行使しうる。
各省の長官以下幹部人事(次官補代理以上)や大使人事に承認権を持つ上院は、現在与党民主党が多数を占めている。
ただ上院には、個々の議員や少数派に拒否権に近い権限を与える独特の院内規則がある。例えば、単純過半数で議決が為される下院と異なり、上院(定数100)では半数プラス10に当たる60人以上の賛成がなければ採決に入れない。また、大統領が提示した人事に関し、個々の議員が一定期間「待った」(ホールド)を掛けることも出来る。従って政権側にとって上院議員は、一人たりとも決定的には敵に回したくない存在と言える。
日本の自由改憲保守にとっては、オバマ政権が平和共存派中心だけに、一層米議会レーガン派との緊密な意思疎通が重要となろう。
日本においても外務省は、米国務省同様、宥和派が主導する組織である。両者は国境を越えて連携し、価値観戦略(彼らに言わせればその「行き過ぎ」)に対する抵抗勢力であり続けるだろう。ブッシュの「悪の枢軸」にならい、国務省・外務省ラインを「宥和の枢軸」(axis of appeasement)と呼んでもよいかも知れない。
(つづく)
以下、各節のタイトルのみ掲げておく。
・北朝鮮テロ指定解除および核検証をめぐる攻防
・ブッシュ政権の誤りと日本政府の追随
・国連海洋法条約を批准しないアメリカ
・レーガン革命と憲法改正運動