安保理常任理事国入りという危うい幻想―国連憲章改正・発効のハードル |
私も役員を務める国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)が、先週5月21日、インドの有力シンクタンク、ビベカナンダ国際財団(VIF、アジット・ドバル所長)との共同研究報告書「日印の戦略的パートナーシップと協力の枠組み」を発表した。
明日からのマンモハン・シン印首相の訪日を控え、議論の活性化に資することが期待される。
国基研の下記サイトから全文が読める。
http://jinf.jp/news/archives/10625
下記は、「国際機関や地域問題での協力」を取り上げた部分に関し、私の作った叩き台である。
最終的には、国基研内部、更にはインド側との討議を経て、全体の文脈により適合した内容、表現に改められている。自分用のメモの意味もあり、「叩き台」の方をここに掲げておく。
■目指すべきは国連安保理常任理事国入りではない
2011年12月28日、野田佳彦、マンモハン・シン両首相が署名し、ニューデリーで発表された共同声明「国交樹立60周年を迎える日インド戦略的グローバル・パートナーシップの強化に向けたビジョン」はその第31項で、次のように国連安保理「改革」に触れている。
両首脳は、常任理事国及び非常任理事国の拡大を含む国連安全保障理事会の改革を実現するとの決意を改めて確認した。両首脳は、この考えに基づき、国連総会の政府間交渉に積極的に参加していくことで一致するとともに、安保理をより代表性、正統性、実効性が備わったものにし、21世紀の国際社会の現実により応えたものにするため、一層努力することを決定した。
「改革」の眼目は、日印両国の安保理常任理事国入りにあり、そのため両国は「政府間交渉に積極的に参加」するなど「一層努力する」というわけである。
しかし、日印両国が拠って立つ価値観(自由、民主、法の支配、人権等)を自己の存立基盤を掘り崩すものとして敵視する中国共産党政権が、日印の影響力強化につながる「改革」を受け入れるはずがない。
また日印独ブラジル4国の常任理事国入りという案(G-4案)には、それぞれを域内ライバル視する韓国、パキスタン、イタリア、アルゼンチン等の異議に加え、「西ヨーロッパから英仏2国という現状自体不公平なのに、さらにドイツを加えるなど論外、EUとして代表枠を一つにすべき」との意見も広範囲に存在する。
国連憲章の改正および発効には、「総会の構成国の3分の2の多数で採択され、かつ、安保理のすべての常任理事国を含む国連加盟国の3分の2によって批准」という条件をクリアせねばならない。1965年、非常任理事国の数を国連発足時の6から10に増やす改正が採択され発効した。しかし、常任理事国の拡大となると、問題が質的に異なる。
われわれは、予見しうる将来、日印の安保理常任理事国入りを含む憲章改正が総会で採択される可能性、いわんや発効に至る可能性はないと考える。
にも拘わらず、無駄な「努力」をするならば、人的資源と国家予算を浪費することになろう。が、負の面はそこにとどまらない。
例えば、中国の拒否権を回避するためチベット問題で沈黙するといった政策的抑制を日印両政府が行うならば、価値観外交の展開を大きく損なうことになる。
日印両国の努力は、むしろ、中国が特権的地位を有する国連安保理の重要性を相対的に下げる方向に向けられるべきであろう。先の日印共同声明は第23項で次のように言う。
両首脳は、東アジアの平和、安定、経済的繁栄を促進することを目的として、共通の利益及び関心事に関する幅広い戦略的、政治的、経済的問題についての対話の場としての東アジア首脳会議(EAS)への支持を改めて確認した。両首脳は、EASが、アジア太平洋地域において開放性・包含性・透明性のある地域協力枠組みを構築するフォーラムとして果たし得る重要な役割を確認した。両首脳は、EASへの米国及びロシアの参加を歓迎した。両首脳は、ASEANを原動力とする首脳主導のフォーラムとしてのEASへの支持を表明した。第6回EASで採択された「互恵関係に向けた原則に関するEAS宣言」及び「ASEAN連結性に関するEAS首脳宣言」に関し、両首脳は、東アジアにおける経済統合の達成に向けた一歩として、東アジア包括的経済連携(CEPEA)を推進することへのコミットメントを改めて表明した。……
東アジア首脳会議(EAS)においては日印と中国の権限は対等である。しかも国連に比べ、日印と理念を共有する国々の構成比率が高い。ある種の「東アジア共同体」構想とは異なり、中国への牽制力として重要なアメリカも含まれている。EASは一例だが、多国間枠組の構築としては、国連安保理「改革」ではなく、こうした方向に努力を傾注すべきであろう。
国際的な軍事的協力を要する問題についても、国連安保理の決議を徒に待つのではなく、日印米豪を中心とした有志連合を形成し、機動的に対処したい。