北朝鮮によるアメリカ人拉致か―デヴィド・スネドン(David Sneddon)失踪 |
「北朝鮮による日本人等の拉致について、アメリカは関心を寄せ支援してきた。しかし、アメリカ人も拉致されていたとなると次元が違ってくる」―チャック・ダウンズは何度かそう強調した。
一昨日店頭に並んだ『ワシントン北朝鮮人権委員会・拉致報告書』(自由社)は、アメリカ人拉致疑惑の章が加えられた点で、5月に出て話題を呼んだ英語版を上回るインパクトがある。
ダウンズ(同委員会前事務局長)によれば、スネドン青年の両親に当然の逡巡(息子に危害が及ぶのではないか)があり、英語版では言及できなかったが、5月にワシントンで行われた発表会見の場で、同席した増元照明家族会事務局長から声を上げるよう勧められたスネドン夫妻が決断し、今回、盛り込むに至ったという。
デヴィド・スネドン(当時24)は、2004年8月14日、中国雲南省・シャングリラ県(香格里拉県)の韓国レストランで目撃されたのを最後に消息を絶った。
1カ月後、家族が捜索のため現地を訪れたが、何の手掛かりも得られなかった。
ダウンズはじめ関係者が、北朝鮮による拉致の疑い濃厚と見る根拠は以下の通りである。
・北朝鮮による拉致は、工作機関が成果を競うため、「解放」記念日(8月15日)が近付くにつれ多発すると言われる。
・同年7月9日、北は、チャールズ・ロバート・ジェンキンスを不本意な形で出国させるに至った。デヴィド失踪はその約1カ月後であり、北が腹いせないしプライドを保つため、新たに米国人を拉致した可能性がある。
・デヴィドは標準的発音のアメリカ英語を話し、韓国語に堪能だった。例えば、南部訛りの強いジェンキンスより、はるかに英語教師に適している。
・同年7月21日、米下院が、北朝鮮人権法を可決した。7月28日、ベトナム政府が、自国内にいる468人の北朝鮮難民の韓国移送を決定。北朝鮮はベトナムを強く非難すると共に、「米国が喧伝する人道主義の看板の下、共和国(北朝鮮)の同胞を脅迫し、誘い出し、移送したことで、いくつかの国にあるNGOに対し報復する」と宣言していた。
・中国で事件に巻き込まれた米国人は少なくないが、何の痕跡も残さず忽然と消えてそのままというのはデヴィドのケースのみ。パスポートも何も出てこない。
・犯罪集団の行為なら、乱暴かつずさんな手法から形跡が残ってもおかしくないし、中国官憲による拘禁なら、背が高くブロンドのアメリカ人青年に関する何らかの証言や噂話が出てきてもおかしくない。
7月にワシントンで会った際、ダウンズは、ロスレーティネン下院外交委員長(対北朝鮮でハードライナーの先頭に立つ)に話したところまだ半信半疑ですぐ動く感じではなかったと語っていたが、今回聞くと、ロスレーティネンも本腰を入れ出したとのことだった。
スネドン夫妻は、「アメリカでは、個人的には同情をしてくれるものの、政府としては中国との関係悪化を懸念して、拉致事件を疎かにしているとしか思えません」と述べている。
議会・民間の有志主導で、北朝鮮問題における日米連携の機運を大いに高めたいところだ。
【参考】
ダウンズは今年6月の下院外交委員会公聴会における質疑応答で、デヴィド・スネドン失踪事件は北朝鮮による拉致と見られると証言した。
http://foreignaffairs.house.gov/112/66780.pdf
なお、同日は俳優リチャード・ギア(Richard Gere)が中国政府のチベット人抑圧を批判した証言もあり、やはり上記サイトにある。
Hearing: Before the Committee on Foreign Affairs House of Representatives
June 2, 2011
……
Rep. Dan Burton. ……North Korea said that, when we passed the Korean Government sanctions legislation, the Korean Human Rights Act, that the NGOs will pay for that. Can you elaborate on that real briefly? Have they done that? Has there been any repression of the NGOs that were there in
Chuck Downs.……I have considered that an additional bit of circumstantial evidence that suggests that the mysterious disappearance of David Sneddon was actually a North Korean abduction. There are a number of other circumstances that support the same conclusion.
You can say that they have taken other actions as well against NGOs around the world, but in that particular time period there was one action that, I think, is attributable to
★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2011.11.11)
本日、11月11日、衆議院議員会館において、拉致議連主催、家族会・救う会・調査会と志士経営者倶楽部が後援するワシントン・北朝鮮人権委員会報告書出版シンポジウムが開催された。
平沼赳夫・拉致議連会長等衆参議員20数名が参加した他、家族会・救う会・
調査会など300名以上で会場が満席となった。
■チャック・ダウンズ氏らが講演-ワシントン・北朝鮮人権委員会報告書出版シンポジウム
シンポジウムは、『ワシントン北朝鮮人権委員会 拉致報告書』の出版を記念
するもので、北朝鮮人権委員会事務局長で、元米国防総省朝鮮半島分析官のチャック・ダウンズ氏と偵察衛星による北朝鮮映像分析の第一人者であるカーティス・メルビン氏が講演した。
今年5月に、米ワシントンで出版された英語による初の拉致報告書「北朝鮮による外国人拉致犯罪報告書」(「Taken!」が話題になり、日本でも出版されることになったもの。
北朝鮮人権委員会は米国の各界の専門家によって作られ、北朝鮮の人権問題に着目するNGOで、既に政治犯収容所に関する脱北者の聞き取り調査報告書等を出版している。
チャック・ダウンズ氏は、強制的であれ、自由意志であれ、移動の自由も言論の自由もない北朝鮮に抑留された人々はすべて拉致と考えるべきだと述べた。そして、朝鮮戦争中に専門家2万人を含む約8万3千人が拉致され、帰国事業として在日朝鮮人と日本人妻約9万3千人が拉致された他、世界14か国から約18万人が拉致されたと述べた(図書巻末の拉致被害者一覧では180,108人としている)。また、独裁政権下の2千万人の北朝鮮人民も解放されるべきだと述べた。
さらに、米国人デイビッド・スネドン氏が拉致されていることも紹介した。今回の出版では、スネドン氏の両親のインタビューも新たに掲載されている。
カーティス・メルビン氏は、衛星画像を用いて、拉致被害者が教官となっていた金正日政治軍事大学やその近くの居住地、よど号ハイジャッカーの革命村などを紹介した。
図書については救う会ホームページをご参照ください。
上記シンポジウムに先立って、午前10時、国家基本問題研究所を訪れたダウンズ。やや遅れて、カーティス・メルビンも合流した。上の「スネドン失踪を拉致と見る根拠」は、この場での話も加味して整理した。
地図は「北京ing」より。2001年、雲南省デチェン蔵族自治州中甸県(ちゅうでんけん)を、観光効果を狙い、シャングリラ県(香格里拉県)に名称変更。漢字表記の最後が「拉」で終わっているのが示唆的だ。
“地上の楽園”シャングリラ。チベット仏教の松賛林(ソンザンリン)寺。National Geographic(日本版)2008年5月号「大地の素顔」より。写真=George Steinmetz
Key Words: David Sneddon,