ニコル・ウォレスの政治小説 『18エーカー』 |
ニコル・ウォレスの政治小説『18エーカー』(Nicolle Wallace, Eighteen Acres, 2010)を読んだ。18エーカー(約7万平方メートル)はホワイトハウスの敷地面積で、「官邸」を指す関係者の隠語だという。
ウォレスはジョージ・W・ブッシュ政権でホワイトハウス広報部長(Communications Director)を務め、2008年大統領選では、マケイン・ペイリン選対でメディア戦略を担当するなど、政界に通じた人である。
小説は、支持率低下に悩みつつ再選を目指すアメリカ初の女性大統領シャーロット・クレイマー(共和党)とその首席補佐官メラニーを軸に展開する。
大統領が打った起死回生の一手は、男性の副大統領を勇退させ、女性の、しかも民主党員を新たな副大統領候補に据えることであった。共和党の大統領候補が民主党から副を選んで、民主党側の候補と戦う、あるいはその逆の「和合コンビ」(unity ticket)というアイデアは、折に触れ話題に上ってきた。
前回大統領選でも、ジョン・マケイン(共和党)が、民主党陣営に属するジョー・リーバーマン(安全保障問題では、ほとんどの共和党議員以上にハードライナー)を副大統領候補に据えるのではと、一時取り沙汰された。
小説でシャーロット大統領が白羽の矢を立てたのも、ニューヨーク州検事総長としてテロ対策に手腕を発揮し、保守派にも評判のよい「法と秩序型民主党員」(law-and-order Democrat)の女性であった。
時にサラ・ペイリンを彷彿とさせるこの副大統領候補は、きわどい表現も交えたアドリブの強硬発言で演説会場を大いに盛り上げるが、シナリオ通りにすべてを進めたい首席補佐官にとっては、いちいち癇に障る「危ない素人」である。このあたり、ペイリンをめぐってマケイン陣営内で実際起こった諍いがさまざま反映されているようだ。
最近、しっかりした女性たちと接し、鍛えられる機会が多いせいか、女性の正副大統領コンビと聞いても、特に違和感を覚えない。…のは、やはり男の側に一層の奮起が必要ということか。
アメリカで本格化してきた野党共和党の大統領候補選びで、現にミシェル・バックマン下院議員、サラ・ペイリン元アラスカ州知事の女性コンビを推す声もある。
バックマンについては、評論活動で名は売れたが議会活動(法案をまとめ通過させる作業)で実績がない、ペイリンについても、最もマイナーな州の知事を、しかも1期目途中で辞任しており、実績および自覚に欠けるとの批判が共和党内部にも根強くあり、このコンビ実現の可能性はかなり低いだろう。が、いずれにせよ、二人とも熱心な支持層を抱えており、大統領予備選で台風の目になることは間違いない。