尖閣と日米関係―『新日本学』第19号より(3) |
拓殖大学日本文化研究所の季刊『新日本学』第19号(2010年12月20日発行)に寄せた拙稿「尖閣と日米関係」から、第3節を以下に引いておく。アメリカの保守系アジア問題専門家の意見を紹介した部分である。
第1節と第2節は下記エントリにある。
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/2085075/
http://island.iza.ne.jp/blog/entry/2088252/
尖閣と日米関係
島田洋一(福井県立大学教授、国家基本問題研究所企画委員)
3.菅政権の尖閣衝突対処―米側の見方
ヘリテージ財団の中国専門家ディーン・チェンは、2010年9月24日付の論説「海における日中対決」で、尖閣諸島が日米安保の発動対象たる「日本国の施政の下にある領域」であるとの前提が、「船長を裁判もなく釈放するという今回の決定によって掘り崩されたかに見える」と冷徹な観察を記す。チェンはさらにこう続けている。
今回の日本の対応は、北京に対し、思い切り怒鳴り散らせば言い分が通るという教訓を与えたであろう。原則を崩した結果、日本の当局者は、中国側のさらなる侵入や一層強引な振る舞いに備えねばならなくなった。
チェンは、つづく9月27日付の論説「東シナ海再燃」で、この点をさらに敷衍している。「中国の非常な過剰反応に屈し船長の釈放を決めることで、日本は、北京に対しあのやり方が効くと思わせてしまった。これは日本自身や東アジア地域のみならず、ひいてはアメリカにも影響が及ぶ極度に危険な前例を作ったことになる」。
「中国が状況を読み違え(それを日本が奨励してしまった)」、アメリカが巻き込まれる可能性が高まる中、米政府は同盟諸国に対し次の点を明確にすべきだとチェンは主張する。
中国の獰猛な振る舞いに先制譲歩や無反応で応じるやり方は、より好戦的な中国を生み、将来の危機をエスカレートさせ、最終的には自滅につながること、そして、アメリカは自助努力をしない者を助けるつもりはないこと、である。
1989年、天安門事件の際の在北京アメリカ大使館駐在武官で、ヘリテージ財団などを経て、現在、米議会の諮問機関「米中経済安保調査委員会」の委員を務めるラリー・ウォーツェルも、こう釘を刺している(産経新聞、10月22日)。
尖閣に第三国からの軍事攻撃がかけられた場合、米国が尖閣の防衛にあたるというのは、まず日本がその防衛のために戦うという行動を明確にとるとの大前提があってこそのことだ。尖閣への軍事攻撃があっても日本自身が戦闘にあたる構えをみせなければ、米国だけが防衛のためにせよ、戦闘行動をとるとは思えない。
中国は1995年、フィリピンと領有権を争う南シナ海のミスチーフ環礁を軍事力で占拠した。このときフィリピンは米国との同盟条約を結んでいたが、米国はそれに対する軍事行動はとらなかった。理由は多々あったが、フィリピン自体が軍事行動を取ろうとしなかった事実が大きかった。
かつて国防総省で日本を担当し、長島昭久衆院議員(前防衛政務官)らの恩師でもあるジェームズ・アワー・バンダービルト大教授も同じ点を強調する(国家基本問題研究所「今週の直言」、11月8日)
……「でも、日本が尖閣防衛の措置を講じなければ、米国は単独で防衛するでしょうか」とこの学者は疑問を呈した。私は、同盟国が自ら何もしなければ、米国がその同盟国の防衛に出動することは難しいと認めざるを得なかった。
日本が尖閣諸島を自国領であると主張する法的根拠は強固だ。しかし、領土維持の決意をはっきり示すには、領土防衛のために血を流す覚悟がなければならない。
国務省、国防総省でアジア担当官を務めた米国防大学上級研究員ジェームズ・プリシュタップは、菅政権の弱腰が浮き彫りにした中国の本質を指摘しつつ、まず日本がなすべき措置に触れている(産経新聞、10月21日)。
日本があの時点で中国漁船の船長を釈放したことは中国への屈服にみえた。……(中国側の異様なほど強硬な圧力戦術は)米国側に対して中国という国家の真の性格を悪い方に印象づける結果となった。
中国がいざという際には、こんな乱暴な出方をしてくるのでは米国としても日本との同盟を強化せざるをえないということだ。……
日本側としては今後、尖閣諸島の保持には自衛隊を尖閣地域に常駐させることや監視を強めること、さらには米軍と合同での軍事演習を繰り返すことなどの手段が必要になるだろう。……
8日(土)、定宿の町村会館(永田町)から靖国神社まで歩き、参拝した。片道30分ほどで、途中、坂もあり、適度な運動にもなる。帰りは千鳥ヶ淵沿いの道を取った。
往きに通った袖摺坂(そですりざか)。かつては袖を摺りあうほど狭かったのが由来という。
境内の池
千鳥ヶ淵回りで、帰りに上った五味坂
どこか侘びしさを感じさせるポスター