「民主党政権を忍耐強く見守ってはならない」(キャロリン・レディ元NSC部長) |
元米国NSC不拡散戦略部長で、現在日本で研究中のキャロリン・レディ氏が、日本版ウォール・ストリート・ジャーナルに鋭い鳩山政権批判を書いている。
レディ氏は、「民主党政権を忍耐強く見守る」べきという、アメリカの日本専門家たちの見方は的外れで、鳩山自身が「国内少数派の盾に隠れ、彼らを扇動しているかのようにみえる」と指摘している。
その通りで、鳩山氏は、単に決断力がないだけでなく、アメリカと対等に渡り合っていると思いたい幼児的なナルシシズムにも冒されている。そして、「恵まれた家庭に育った」スポイルド・チャイルドゆえ、これは死ぬまで治癒しない。
なお、櫻井よしこ編『日本よ、「戦略力」を高めよ』所収の拙稿で、「ブッシュ政権時代に国務省とNSCで核拡散防止を担当し、NSCでは(ビクター・)チャと同僚だったあるハードライナーの女性」のコメントを引用したが、これは実はレディ氏のことである。その部分も併せて転載しておく。
【日本版特別寄稿】鳩山政権、防衛政策の誤算
キャロリン・レディ氏(元米国家安全保障会議不拡散戦略部長)
2009年 12月 16日 9:33 JST
オバマ米大統領が先月訪日し鳩山由紀夫首相と会談した際、米日同盟は大げさまでに褒め称えられた。鳩山首相は「日本外交にとって日米同盟がすべての礎だ」と述べ、大統領は東アジアの「安定と繁栄の基軸だ」と語った。だが、これらのレトリックは誇張に過ぎない。
民主党主導の政権は、発足後の3カ月間で、米日同盟を揺るがしかねない施策を行った。民主党は1960年の日米安全保障条約改定を見直す構えを示し、72年に結ばれた核搭載米艦船の寄航などに関する「密約」を暴き出す“魔女狩り”を始めた。また、インド洋での給油活動の期限延長をせず、ミサイル防衛の費用対効果を疑問視し、米国による核の傘の必要性に疑問を投げかけた。
さらに、米軍普天間基地を住宅が密集している宜野湾市から名護市辺野古の沿岸部へと移設するという2006年の合意を再検討する方針を示したことから、日米関係には緊迫した状態が続いている。ほぼ連日、首相官邸や外務省、防衛省は相反するメッセージを米国や日本国民に対して発している。首相は結論を早急に出すとしているが、来年7月に予定されている参院選以降に持ち越される公算が大きい。
どうやら、鳩山首相は東アジアの安全保障体制を再編し、米国への依存を減らしたいとの思惑があるようだ。しかし、この戦略には重大な欠陥がある。長年の間日本は防衛費を削減し、国内の軍需産業は危機的な状況にある。その結果、日本がこの地域に存在する脅威から自国を防衛することは不可能だ。
シンクタンクや大学に籍を置く日本専門家の多くは、民主党政権を忍耐強く見守るように促している。彼らは、ゲーツ国防長官が10月に、米国は2006年の合意を変更する気がないことを日本政府に対し率直に伝えたことを激しく批判した。民主党を批判する勢力に対しては、沖縄県や脆弱な連立政権を共に組む社民党からの抵抗といった国内事情を配慮していない、と非難した。
だが、このような専門家の見方は的外れだ。確かに国内的な制約は存在するだろうが、だからと言って、戦略上広範な影響を及ぼす問題を棚上げしてもいいというわけではない。さらに、8月の総選挙で沖縄県が民主党を支持した理由は、普天間基地問題だけに限ってのことではない。日本国民の大多数は強固な米日同盟を支持している。その多くが、先の総選挙で民主党に投票したが、普天間問題の見直しを望んでいたのでもなければ、同盟関係の解消を望んでいたわけでもない。
鳩山首相は、普天間基地移設合意に反対する国内少数派の盾に隠れ、彼らを扇動しているかのようにみえる。岡田外相が先日沖縄で開いた対話集会では、問題解決が遅れていることで地元住民から怒号まで出る激しい非難を浴び、国民に与えたイメージは惨憺たるものだった。そもそも米日同盟の熱烈な支持者とはいえない岡田外相ですら、この問題をめぐる鳩山首相の姿勢がブレることにうんざりした様子を見せているようだ。岡田外相は「日米合意が実現出来ずに一方的に白紙に戻せば、信頼関係がなくなる」と記者会見で述べた。
鳩山首相は強く出すぎたのかもしれない。普天間問題をめぐる不適切な対応は、民主党と鳩山氏の政治家としての責任問題となってしまった。この問題に対する国民の不満は、景気対策や鳩山氏が母親から受けた政治献金問題と共に、国民の間に広がる民主党への不満の最大の理由に数えられる。鳩山政権はもう何カ月ももたないだろうとの観測が強まっている。
米日同盟が危機的な状況であることは明らかだ。しかし、この重要な同盟関係を救う時間的余裕はまだ残されている。20年近く続いた普天間問題をめぐる協議は緊張をはらんだものであり、多くの複雑な問題が入念に検討されたのだ。現在の合意内容は、米日が戦略的、経済的、社会的問題を考慮した上で双方の善意を反映したものだ。両国が受け入れる必要がある。
日米関係を危うくすることで失うものはあまりに大きい。オバマ大統領が同盟関係を維持するよう鳩山氏を説得できなかったら、来年の米日安保条約改定50周年を記念する花火ではなく、葬式を準備することになるだろう。
(キャロリン・レディ氏は、2006年から2007年まで米国家安全保障会議〈NSC〉不拡散戦略部長を務めた。現在、日立-外交問題評議会の国際問題フェロー)
■櫻井よしこ編『日本よ、「戦略力」を高めよ』(文藝春秋、2009年)より
島田洋一執筆
……
アメリカ政府による北朝鮮のテロ支援国家再指定については、「当面ないだろう(残念ながら)」というのが、四月段階での米側関係者の支配的見解だった。もっとも、ビクター・チャから興味深い話が聞けた。
チャは、ブッシュ政権で数年間、NSC日本朝鮮部長を務め、現在、ジョージタウン大学の教授である。
「北朝鮮がミサイル発射を強行し、国際原子力機関(IAEA)の査察官を放逐し、プルトニウム抽出を再開した以上、テロ支援国リストに再び載せるべきだ。いま北をリストに載せられない理由はない。法的要件を云々する人がいるが、テロ支援国リストは『政治的リスト』(political list)だ。載せる載せないは、もっぱら政治判断による」
さらにチャは、「北朝鮮政策に携わった人間で、私と同意見の者は、多分皆さんが驚くほど多いはずだ。北が先日、弾道ミサイル発射、核実験、ウラン濃縮等を進めると声明したが、その種のことを言えば言うほど、再指定すべきという声が強くなろう」と付言した。この見立てが正しいとすれば結構な話だ。
もっとも、ブッシュ政権時代に国務省とNSCで核拡散防止を担当し、NSCではチャと同僚だったあるハードライナーの女性にこの話をしたところ、「彼は現職時代にその姿勢を見せるべきだった」と揶揄していたが……。
その後、北朝鮮の二度目の核実験を経て、六月二日、共和党のジム・デミント上院議事運営委員長ら八人の上院議員が、北朝鮮のテロ支援国家再指定を求める書簡を連名でクリントン国務長官に送った。
書簡は、「遅滞なく北朝鮮をリストに戻し、秩序を乱す活動を資金面で支える多国間融資やその他の金融手段から排除することがきわめて重要である」とやはり金融制裁の必要性を強調している。
これに対し国務省は、「確かに問題であるが、テロ指定の法的要件は満たさない」と予想通りの消極姿勢を見せた(六月三日、クローリー国務次官補会見)。
「法的要件」云々は、先のビクター・チャの指摘にある通り、行動しないための言い訳に過ぎない。
……