オバマ政権は金正日の狡猾に勝てるか(3) |
カギは金融制裁の再強化
北朝鮮への締め付けで、過去、最も効果があったのは金融制裁、という点で専門家の意見は一致している。
北のマネー・ロンダリングの拠点、マカオの銀行バンコ・デルタ・アジアへの制裁発動(9.11テロ後にできた米「愛国者法」311条を用いたもの。これは疑わしきを罰する超法規的規定)のみならず、米財務省は中国銀行(Bank of China 中国四大商業銀行の一つ)をはじめ、北と関係を有する各国金融機関に対し、制裁の脅しを武器に取引停止を迫った。
それまで北の5人程度の担当者が、バンコ・デルタ・アジア経由でダーティ・マネーを一手に処理していたのが、その道が閉ざされ、他の関係銀行も接触を避けるに至ったため500人以上の人間に現金を携行させてモンゴル、ロシア、チェコ辺りまで派遣、受け容れ金融機関を求め徘徊する羽目になった。現金を持ったまま姿を消すケースも出たという。
金融は経済の血液というが、三九号室が仕切る北の宮廷経済の血流が滞ったわけである。
ところが、2007年2月、米政府がライス・ヒル主導で宥和政策に転じ、この締め付け策を放棄してしまった。ブッシュ政権最大の失政だったといえる。
この点に関して訪米中、米側専門家の何人かから、スチュアート・レビー財務次官(テロ・金融情報担当)の留任を好感する発言が出た。
金融制裁(およびその脅し)さえ復活させれば、北を追い詰められる、レビーはノウハウをもっており、よい進言が出来るはずだというのである。もっとも、上が決断できなければ、それまでだが…。
四月中旬、やはりワシントン滞在中の安倍晋三元首相がレビーと面談し、日米共同金融制裁について話し合ったと聞く。
安保理決議をめぐり、中国政府と鞘当てを繰り返すより、中国の金融機関に圧力を掛けた方が、よほど圧力として効率的だろう。
ジョン・ケリー上院外交委員長のアジア問題担当スタッフ、フランク・ジャヌージも、「圧力強化が必要になった時、それは一つのオプションだ」と述べていた。
2007年1月、安倍首相がスイスの大統領に電話し、スイス銀行にある40億ドル以上と言われる北の秘密資金について注意を喚起した。この資金の締め上げについても具体的に動く必要があろう。ジャヌージからも、日本政府のその後の対応を聞かれた(残念ながら、ほとんど何もしていないようだ)。
なお、北のミサイル発射後に日本政府が発表した追加制裁で、重要な柱、「全面禁輸」が、なぜか最終段階で落とされた。麻生政権の腰砕けと評さざるをえない。
ワシントンで安倍元首相に経緯を尋ねたところ、「確かに不透明だ。私が直前に麻生総理と話した時、総理はやると言っていた。中川昭一氏が念を押した時にも同じ返答だったと聞いている。ところが蓋を開けると落ちていた。あの追加制裁はパッケージとして意味がある。『全面禁輸』はメッセージとして重要だ」と述べていた。
麻生首相は、「盟友」二人の進言よりも、外務省幹部らの宥和論に動かされたことになる。この程度で二の足を踏むようでは、中国の銀行に対する制裁警告など、とてもおぼつかないだろう。情けない話だ。
(つづく)
JR小浜駅。ここから福井県立大学・小浜キャンパスまで車で10分弱。今日も授業(隔週で1回2コマ)に行ってきた。駅前に貸し自転車もある(8時間1000円)。