ジョゼフ・フィンダーのサスペンス『パワー・プレイ』 |
ジョゼフ・フィンダーのサスペンス小説『パワー・プレイ』を読んだ(Joseph Finder, Power Play, 2007)。邦訳はまだないようだ。
フィンダーについては、以前ここで、企業サスペンス『パラノイア』を取り上げたことがある(『侵入社員』のタイトルで邦訳あり)。
今作の舞台は、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州に実在する人里離れたリゾート地リバース・インレット(Rivers Inlet)で、サケ釣りの名所とのことだ(写真、地図)。小説では、携帯電話もインターネットもつながらないコテージということになっている(事務所にある衛星回線のものを除いて)。
ここで、ある航空機メーカーのCEO(最高経営責任者)以下重役たちが揃って、4日間の合宿研修をすることになる。もっとも、ライバル・メーカーから来た新任の女性CEOは、不正政界工作一掃を掲げて社内調査に乗り出しており、一同には不穏な空気が漂っていた。
例えば、反CEO派の間で次のような会話が交わされている。
“Hank, you’re the only one who can persuade this chick you don’t shit where you eat.”
“Well, my daddy taught me never to talk that way to a lady. Anyway, what I have in mind doesn’t include persuasion.”
(訳)
「ハンク。メシ喰うところでクソしたらいかんと、あの娘を説得できるのはお前だけだ」
「まあ。女に決してそんな口をきくなと親父に教えられたんでね。とにかく、俺が考えている中に、説得というのは入っていない」
初日の夕食の場に、突如、迷彩服に身を包んだ武装グループが乱入し、雰囲気は一転、テロ小説に変わる。
犯人たちの口座に大金をインターネット送金しなければ全員殺すというのが武装集団の要求であった。
その後、犯行は重役の一人と組んだものだったことが分かる。前CEO(ゴルフ中に急死)の指示で、政界工作用の裏金(slush fund)作りのため、腹心の会計担当が運用していた秘密口座が投資失敗で大損を出し、その穴埋めに考えた窮余の策だった。
ところが元兵士や囚人上がりからなる武装集団が、約束された報酬に飽きたらず、要求額をエスカレートさせた上、人質の殺害を始める。
ここから、主人公(ある重役の代役で参加していた唯一の若手。少年院暮らしの過去をもつ)とその元恋人(CEOの側近)が機転を利かせつつ、窮境を打開していく過程が、小説のクライマックスをなす。なかなか面白かった。
本筋とは関係ないが、食事に関して二カ所、日本絡みの記述があった。一つは、ニューヨークの高級レストランで感動したステーキについてのある重役発言。
“The
(訳) 骨髄付きの神戸牛。すばらしい。
もうひとつは、リゾートでの夕食コース中の一品。
Raw oysters served with a pungent ponzu sauce.
(訳) ピリッとくるポン酢醤油を掛けた生牡蠣。
いずれも注釈なしなので、アメリカのグルメの間ではかなり浸透しているのかと興味を引かれた。