北の核「完全申告」--ボルトンのシミュレーション |
下記は、月刊誌『現代コリア』に連載中の拙稿(2007年10月号掲載分)の冒頭部分である。
核計画に関し、北朝鮮がどのような「完全な申告」をしてくるか、ボルトン前米国連大使のシミュレーションを紹介した。
アメリカはどう動くか(27)
島田洋一(福井県立大学教授)
「無力化」の徹底検証を
9月はじめの米朝協議(ジュネーブ)を受けて、北朝鮮外務省報道官が9月3日に出した「朝米双方は年内に(北の)核施設を無能力化するための実務的対策で合意した。これにより、米国はテロ支援国家指定からわが国を削除し、制裁を全面的に解除することになった」との声明をめぐり、米側の真意を問う声がメディアを賑わせた。
翌日、米側代表ヒル国務次官補が、テロ指定解除は「北朝鮮が今後、非核化について取る措置にかかっている」と発言し、それ以上報道が過熱することはなかったが、ここで、以下の基本線を押さえておく必要があろう。
米政府が国内法に基づいて指定する「テロ支援国」のリストから北朝鮮をはずすかどうかを決めるのは、言うまでもなく、米政府である。
例えば、北が、リビア並みの核放棄(IAEAだけでなく、米英情報部にも関連文書を開示、現場検証も容認。核物質を含む核施設を速やかに解体、海外搬出に応じる)を実行したから、ある程度日本との摩擦を覚悟しても、テロ支援国指定を解除するというなら、それはありうべき一つの政治判断だろう。
日本としては、アメリカが、国際金融機関から北への融資を推進しようとした際(テロ指定を解除するとこれが可能になる)、対米摩擦を覚悟しても反対に回るとの姿勢を明確にするなど、独自に対抗手段を講じるほかない。
なお、「テロ指定解除」問題については、米側に適宜クギを刺すことも必要だが、北の日米分断心理戦に乗せられないことも重要だ。
そもそも、金正日がまじめに核を放棄するはずがない(と私は確信している)。
従来どおり、適当にごまかしながら、取れるものだけ取ろうとしてくるだろう。
したがって、文句の付けようがない「無力化」合意ができた際、日本が拉致にこだわっていると孤立しかねないといった、あらぬ心配をするのではなく、「無力化」の中身に徹底的に注文を付け、検証するという姿勢が、いま日本政府およびマスメディアに求められよう。
ボルトンのシミュレーション
ライス・ヒル路線を厳しく批判するジョン・ボルトン前国連大使が、国務省のコーチングをも受けて北朝鮮が今後出してきかねない「声明」として、次のようなシミュレーションを提示している。(Wall Street Journal, Aug. 31, 2007)
われわれは、二つの核爆弾を製造した。その内の一つは昨年10月に起爆させた。もう一つは、それ以前に起爆させたが、外部世界は、それを核爆発と認識しなかった。現在、われわれは、核爆弾を一つも持っていない。
われわれのプルトニウム再処理努力は、あまりうまくいかなかった。そのため、たった二発の爆弾しか得られなかったのである。そのいずれも、爆発力は大きなものではなかった。
最終的に、われわれは、限られた残りのプルトニウムを手放した。今どこにあるのか、まったく関知しない。われわれは現在、プルトニウムをまったく持っていない。
ウラン濃縮に関しては、いくらかの六フッ化ウランと若干の遠心分離器を連続実験のためA・Q・カーンから買った。しかし資金的制約のため、そこから先には進めなかった。それゆえ、われわれは、かなり以前に、少量の六フッ化ウランおよび遠心分離器を除いて、すべてを第三者に売った。わずかに寧辺に残っているものは、近く提出する。以上。いいですか?
もし、この類の「完全な申告」に対して、米側が、協議進展の外観を得るため、それなりの見返りを与えようとするなら、安倍首相は、六者協議日本側代表団に対し、署名せず帰国するよう指示すべきだろう。
同じ論説文で、ボルトンは、次の点にも強く注意を促している。
ブッシュ大統領は、北朝鮮の生物・化学兵器、弾道ミサイル計画にも対応せねばならないと強調してきた。われわれはすぐに、これらの計画、とりわけミサイル問題に真剣に取り組まねばならない。兵器と運搬システムの重要な関連を明確にすることを怠るなら、それは間違いなく、将来われわれを悩ますことになる。そして今や、この問題が、完全に抜け落ちていくのを黙って見過ごしかねない状況にある。
すでに配備済みのノドン・ミサイルは、日本の安全保障にとって、重大な脅威である。日本としては、この点でも、ボルトンらアメリカのハードライナーたちと、しっかり意思疎通を図り、連携していく必要がある。
対テロ戦全般との関連
ボルトンの主張に代表されるように、米ハードライナーたちは、ブッシュ政権の最近の北朝鮮政策に批判的である。
しかし、イラク問題で、共和党内にもある反対の声を押し切っての地上部隊増派が成果を生みつつあることで(後述)、ボルトンを含めハードライナーたちは、対テロ戦争全般(目下の主戦場はイラク)におけるブッシュのリーダーシップ、「がんばり」を高く評価している。
したがって、政権の支持基盤、すなわち保守層において、北朝鮮政策のブレを理由にブッシュを見限る、全面批判に転じるといった雰囲気はない。
北朝鮮問題を重視する立場からは、悩ましいところである。
……
(後略)