南京、慰安婦――日米離間を狙う中国の情報戦略 |
下記は、西村幸祐編 『情報戦「慰安婦・南京」の真実―中国、朝鮮半島、反日メディアの連携を絶て!』(オークラ出版、 2007年)に「南京、慰安婦――日米離間を狙う中国の情報戦略」と題して寄稿した拙文の抜粋である。
同書は、小さな書店の雑誌コーナーなどにもおいてあり、売れ行き好調と聞く。
中国系反日団体の動き
(前略)……
中国共産党(以下、中共)が展開する「日本=反省しない侵略国家」というキャンペーンは、対内的には共産党独裁正当化のための理屈付け、対外的には日米韓同盟体制を掘り崩す情報戦略という意味を持つ。
対内的な情報操作面でのかなめが、「共産党の英雄的抵抗がなければ中国人は皆殺しにされていた。日本は反省していない。一党独裁を緩めてはならない」という反日刷り込み教育の強化である。
中国の国定教科書は、日中戦争における中国人犠牲者数を、1960年までは1000万人としていたが、何ら具体的説明もないまま、1985年には2100万人に、さらに江沢民治下の1995年には3500万人へとかさ上げしている。
3500万人の犠牲者と主張する以上、「大虐殺」と位置づける南京事件など、当然、最低でも死者が30万人程度なければ辻褄が合わないことになろう。風船の表面に描かれた絵が、風船をふくらますに連れて大きくなっていくのと同じ構図だ。
戦時中に日本軍隊が利用した慰安所の実態を歪曲誇張し、日本は組織的に少女拉致、集団レイプに従事していたというイメージを植え付けられれば、他の方面における歴史歪曲も受け入れられやすくなる。「慰安婦」で日本が屈服した瞬間、「南京」での抵抗は一段と難しくなる。中国系反日団体が慰安婦決議に力を入れるのは、戦略的に見て、理に適っているのである。
東京裁判史観と日本の対応
一方、米側にも、こうした中共の情報戦略に共鳴しやすい心理的土壌が存在する。
第二次大戦で日本を破ったものの、結果として中国大陸の赤化を許してしまったという不条理感、原爆投下で婦女子を含む多くの民衆の命を奪ったという負い目、それらを心理的に救済してくれるものとして、日本軍は未曾有の残虐行為を続けており、一刻も早く現在進行形の集団レイプ・虐殺を止め、被害地域を解放する倫理的要請があったという歴史観は都合がよいわけである。
たとえば、日米戦争の最終局面を描いた著書『没落 (Downfall) 』等で知られる歴史家リチャード・フランクは、米国歴史学会で一定の支持を得つつあるという次のような原爆投下擁護論を、保守派の代表的雑誌『ウィークリー・スタンダード』において肯定的に紹介している。
すなわち、日本の占領下にあったアジア地域では、毎月25万人から40万人の人々(ほとんどが一般市民)が死に追いやられており、侵略国日本の被爆者数のみを取り上げ、はるかに多い、また日々増え続けていた被害国の犠牲者との比較考量を行わない原爆投下批判は著しくバランスを欠く、原爆のショックで終戦が早まった分、どれだけ多くのアジア人が死なずに済んだかも、トルーマン大統領の決定の是非を論ずる際、判断材料にすべきだという議論である(2005年8月8日号)。
ファシズム侵略国家日本を、アメリカを中心とする民主勢力が打ち破ったという東京裁判史観は、今でも各種記念日における政治家の演説、「退役軍人感謝」はじめ多くの米議会決議などに、かつてと変わらぬ素朴さで現れてくる。「勝者の裁き」を見直す動機が勝者の側に稀薄なのは当然のことだろう。
それだけに、東京裁判史観のよりグロテスクな形での拡大深化を目指す中共の情報戦略に対抗するには、日本が、政府民間挙げて大々的な反論を展開していくしかない。
それを続ければ、「日本の言うことにも耳を傾けるべきではないか」「単純な決めつけは知的に誠実でない」といった指摘をする人がぽつぽつと出てくる。私はその程度にはアメリカ社会を信用している。
ところが日本政府は、そうした中身に立ち入った反論を、これまでまったくしてこなかった。「日帝による朝鮮人840万人強制連行、20万人の慰安婦強制動員・性奴隷化」という、北朝鮮が国連の場などで繰り広げる歪曲宣伝に対しても、外務省は、①北朝鮮が挙げる数字は過大である②日本は繰り返し謝罪と反省の弁を述べてきた、という二点セットの「反論」しか提示していない。
これでは、日朝のやりとりを聞かされる第三国代表たちが、「まあ、話半分として、日本は400万人ぐらい強制連行し、10万人ぐらい性奴隷にしたのだろう」といった印象を持っても不思議でない。中身に立ち入らない中途半端な「反論」は逆効果でしかないのだ。
実際、事実を争わない日本の姿勢を見透かした北朝鮮側は、以前は600万人強制連行と言っていた数字を、近年、840万人まで水増ししてきている。1000万人を超えるのも時間の問題だろう。
「南京大虐殺」は東京裁判で登場して以来、長い歴史をもった神話である。日本側がいくら努力しても、簡単に戦勝各国における固定観念を変えることはできないだろう。
その点、「慰安婦強制動員」は、比較的最近捏造されたストーリーである。今年(2007年)12月の「南京大虐殺」70周年をにらんで、中共が自ら、あるいは「外郭団体」を使って歴史攻勢を加速させてくるのは間違いない。
その前哨戦というべき慰安婦問題で、日本がしかるべき巻き返しを行えなければ、「20万人の女の子を拉致し、性奴隷として集団レイプした日本軍なら、30万人の民間人虐殺ぐらい平気でやるだろう」という国際的な先入見のもと、続く「南京」戦での大敗は免れないだろう。
中共と連動して動く朝日新聞をはじめとする左翼メディア、媚中派議員、外務省チャイナ・スクール、日教組など日本国内にある反日勢力との戦いも重要要素となる。
「国家の名誉を守る。私はそのことのために永田町にきた」と宣言する弁護士出身の稲田朋美衆院議員は、好著『百人切り裁判から南京へ』の中で、左翼運動家が支持する各種の戦後補償裁判(南京大虐殺、731部隊、遺棄化学兵器、慰安婦強制動員等々で侵略の被害を受けたとする者たちが日本国政府に損害賠償を求める裁判)の現状に触れ、次のように書いている。
(国の代理人を務める法務省の訟務検事たちは)被害者の主張する事実についてまったく争わない。認否(原告が主張する事実について認めるのか争うのかを明らかにすること)すらしない。……さらに証人尋問でも当事者尋問でも証言者の証言に対し反対尋問をしない。除斥期間(不法行為に基づく損害賠償請求権は行為のときから20年で消滅する)や国家無答責といった法律論だけで勝負するのだ。
しかし、当事者間に争いのない事柄は「真実」とするという裁判における「弁論主義」ルールのもと、この姿勢は、著しく日本国の名誉を毀損する結果をもたらす。
国の代理人である訟務検事が、原告の主張する事実をまったく争わなければどのようなことが起きるか。原告の言い分がそのまま「真実」として判決理由中の事実認定に書き込まれるのである。……被害者と主張する者たちの言い分がそのまま「あったこと」として判決理由中の判断に書き込まれるのだ。
外務省といい法務省といい、政府機関がこの有様では、中共との情報戦に勝てるはずがないだろう。