国際政治講座⑥不審船射撃の次に必要なこと |
下記も旧稿の抜粋である。日本の左翼勢力がいかに「テロとの戦い」で日本国民を危険にさらすことを厭わない存在か、犯罪者の側に立った言動を旨とする存在か、改めて確認したいところである。
『月曜評論』2001年11月号
国際政治講座⑥
不審船射撃の次に必要なこと
拉致問題を「粘り強く交渉」するな
福井県立大学助教授■島田洋一
狂牛病にかかった日本外交
……アメリカ社会を狙うテロ集団との神経戦がつづく中、10月30日、大リーグ・ワールド・シリーズ第3戦の舞台ニューヨーク・ヤンキー・スタジアム(潜在的標的の一つといわれる)にあえて赴いたブッシュ大統領は、始球式で見事にストライクを投げ込んでいた。
もちろんパフォーマンスの一つに過ぎないが、国民を鼓舞するに足る、指導者として立派なパフォーマンスだった。
ほぼ同じ頃、日本では、外相の肩書きを持つ田中真紀子氏が、秋の園遊会の出席者名簿に不満があるとかで、人事課長室に押し入り、内からカギを掛けて、わめき散らしていたらしい。
本誌8月号で「現在、日本外交とアメリカ外交の実力差は、リトル・リーグと大リーグ程度にまで開いている」と書いたが、リトル・リーグの少年たちに失礼だったと反省している。彼らはルールも知っているし、基本技術もしっかりしている。
日本外交は、今や狂牛病にかかった牛同様、脳の機能が失われている。
もっとも、光明が見えないわけではない。外交安保の正常化に向けた動きも、徐々にではあるが出てきている。
10月29日、停船命令に従わない不審船に対し船体射撃を認める自衛隊法、海上保安庁法の改正案が、テロ対策特別措置法とともに、参院本会議で可決、成立した。11月2日には公布、即日施行されている。
この内、海上保安庁法改正案については日本共産党も賛成に回った。『しんぶん赤旗』は賛成理由を次のように説明している。
日本の領海内で挙動不審な行動をしたり、犯罪の疑いがある外国船舶に対応するのは警察力であり、それが海上保安庁の任務です。いわゆる「不審船」などによる領海侵犯などがあった場合、軍隊である自衛隊ではなく、第一義的には警察力で主権の侵害を守るのというのが、日本共産党の考えです。……日本共産党は、「不審船」に対する立ち入り検査などは必要なものであり、停船命令に従わずに逃亡する場合には、危害射撃によって逃亡を阻止することが必要との立場から、今回の法改正に賛成したものです。こうした危害射撃は、実際の運用では慎重さが求められることはいうまでもありません。なお今回の自衛隊法改悪法案で、自衛隊に海上保安庁と同様の権限を与える規定をもりこんでいましたが、日本共産党はこれには反対しました。
「第一義的には警察力で」という以上、「第二義的には」軍の出動を要する事態もありうるということではないのか。
共産党は、「海上保安庁の能力に問題があれば、きちんとした機能強化が求められます。たとえば、海上保安庁の巡視船の速度が遅くて『不審船』などに追いつけない状態では困りますから、巡視船の高速化、大型化が必要です」としているが、まず、すでに存在する自衛隊艦船の有効活用を考えるのが、財政的観点からも当然だろう。
しかも、共産党の発想でいけば、たまたま逃亡する工作船の近くに海上自衛隊の護衛艦がいても、一切手を出せず、発砲権限を持つ海上保安庁の巡視船がやってくるまで待っていなければならないことになる。その間に逃げられたらどうするのか。
また、今後は北朝鮮側も、工作船・工作員の武装レベルを上げてくることが考えられる。海上保安庁職員だけに現場を任せるというのは酷な話だろう。海上警察だけでなく海軍による武力行使もありうるとなれば、抑止力も格段に高まる。
海上保安庁法改正案にすら反対し、工作船の自由往来を容認する立場に立つ土井社民党は、田中外務省同様、狂牛病レベルの存在といわざるをえないが、日本共産党の責任政党への脱皮もまだまだ前途遼遠のようだ。……
「確実な証拠」はいらない
アメリカの同時多発テロ事件をめぐり、ビンラディンが関与している確実な証拠が示されていないといった議論が一部で聞かれた。一番声の大きかったのはタリバンである。タリバンといえば、ろくな証拠吟味も反証の機会も与えず、戒律に違反したとされる女性や反対派を「不信心者(infidel)」としてサッカー・スタジアムで公開処刑しつづけている連中だ。何をかいわんや、というやつである。
拉致問題など典型だが、基本的に、加害者が外国の国家機関である場合、日本の捜査当局が北に踏み込んで家宅捜索することもできないし、被害者が表に出てきて自由に証言することもできない。したがって、通常の裁判の厳しい基準で確実に有罪にできるだけの証拠が揃っていないとしても、それは当たり前のことである。
アメリカの航空機自爆テロでも、直接の犯人はみな死んでいて自供の取りようもない。絶滅収容所でのユダヤ人大虐殺についても、ナチスが壊走する際、かなりの施設を破壊したため、いまだにガス室での虐殺は事実とはいえない、充分な物的証拠がないなどと主張する人々が存在する。
結局、常識的、総合的に判断して、北朝鮮による拉致というのは明らかなのだから、その時点で被害者救出に乗り出すというのが、まともな人間、まともな政府の取るべき対応であって、充分な証拠がないから動けないなどというのは、動きたくない人間の口実に過ぎない。
アウシュビッツで実際に虐殺が行われているのか、確実な証拠が表に出てくるまで待っていようなどと言っていれば、証言できる人たちはみな死んでしまうだろう。
警察庁は最近、北朝鮮による拉致「疑惑」でなく、はっきり「容疑」という言葉を使うようになった。これは一つの前進である。金正日は、今や重要参考人ではなく、名実共に容疑者だ。
なお、他国の領域に侵入し、工作員を上陸させるというのは、本来戦争行為であり、その中で民間人を拉致するというのは戦争犯罪行為でもある。
日本政府は、「粘り強く交渉をつづける」という言い方で、無為を正当化することをやめねばならない。
……