国際政治講座④日米軍事同盟の徹底強化を |
(07/8/15 追記。最後に「不戦を誓うな」とした節で、首相の靖国参拝に触れた)
下記は、昨日ここに掲げた文章と同様、やはり約6年前に書いた旧稿の抜粋である。
『月曜評論』2001年9月号
国際政治講座④
日米軍事同盟の徹底強化を
福井県立大学助教授■島田洋一
「行動する良心」金大中、満面の笑み
北朝鮮体制に対し厳しい論調を取ることで知られる韓国の有力誌『月刊朝鮮』の趙甲済編集長は、金正日が「民族史の異端」「守旧・反動勢力」「反人類的犯罪者」「(ラングーン事件や大韓航空機爆破事件を指示した)戦犯」「反国家団体の首魁」「無神論の宗教弾圧者」「無法の専制者」「国際犯罪者」であることを改めて確認した上、昨年6月の金大中訪朝について次のように述べている。
いまさら、金正日の罪状を羅列したのは、金大中大統領に一言申し上げたかったからである。平壌まで訪ねて行って、このような人物に会うということ自体に言いたいことはヤマほどあったが、私は会談前、この金正日と会っても、どうか、白い歯を見せないでほしいと願っていた。だが、わが大統領はその白い歯を見せどおしだった。
七千万の全民族に対する加害者である金正日に、憤怒をあらわす必要はないかもしれないが、心の底で軽蔑していてもらいたかった。だが、そのような様子は、うかがうことができなかった。(『金正日と金大中 野心と野望』講談社)
このとき金大中大統領の補佐役を務めた朴智元文化観光相は、後日、金正日のことを「なごやかで、国家の政策を詳細に把握し、やさしく、政治的センスに優れた人」と評していた。これまた世紀末にふさわしい倒錯した光景で印象的だった。
9月3日、野党ハンナラ党が提出した林東源・統一部長官の解任案が、ハンナラ党と自民連の賛成多数で可決された。統一部の承認を得て8月に北を訪問した「進歩派」グループの一部が、北の体制と金正日を称える言動を盛んに行ったことが問題とされたものである。
趙甲済氏にあるセミナーの席で聞いたところでは、「韓国の親北分子は、普段は、国家保安法に触れるため、民主主義とか進歩、民族和解などの名で金正日支援活動を行っているが、北で仲間に囲まれて嬉しくなり、つい本性を現してしまったのだろう」ということだった。
……
江沢民・オルブライトの笑顔
9月3日、専用機で平壌に到着した中国の江沢民主席は、空港に出迎えた金正日としつこく抱き合い、記者団を前にしての懇談中も終始満面に笑みを浮かべていた。かなりの経済援助も約束している。日本が中国に供与しているODAの一部である。
われわれは、少なくとも金大中や江沢民から「日本人には真摯な反省が足りない」などといわれる筋合いはない。金正日と接する彼らの態度を見てそう感じた人も多いのではないか。
昨年10月に訪朝したマデリーン・オルブライト米国務長官も、江沢民や金大中ほどひどくはないが、やはり不用意に笑顔を振りまき、有力誌ワシントン・ポストなどから手厳しく批判されている。一節を引いておこう。
本質的に奴隷労働を強いられている10万人の人々が、彼女と世界で最も抑圧的な独裁者の一人のためマスゲームを演じているさなか、笑顔を見せ、平気でその顔を写させたオルブライト長官には驚かざるを得なかった。長官は、キム氏とグラスを鳴らし合った。そしてキム氏が「非常に決断力に富み、実際的で真剣な」人物であることが分かったともいう。が、北朝鮮の15万人の政治犯に関して、彼女から何の公式コメントも出なかった。
過去の例に照らし、われわれは、倫理的に唾棄すべきものに対して、アメリカがはっきり批判的姿勢をとったとき、事態に影響を及ぼしうることを知っている。そして、逆の姿勢をとったとき、逆の影響が出るということも……。
オルブライト長官は、もちろん、自ら主管する国務省の報告書に、北朝鮮における拷問、脱走者の射殺、子供が偶然キム氏の写真を汚したかどで一家が長期にわたって収容所暮らしを強いられる等々の事実が記述されていることを知っている。こうした抑圧に対して彼女が沈黙したことは、北朝鮮に関してのみならず、クリントン政権がよりはっきり人権問題を取りあげるとしている他の危険性の低い国々に関しても、アメリカの信頼性を傷つけることになった(2000年10月27日付『ワシントン・ポスト』社説)。
2000年7月、タイのバンコクで初の日朝外相会談がもたれた際、テレビ画面に大きく映し出されたのは、無愛想な表情で椅子に納まる北の外相・白南淳(対南工作専門家)に対し、横座りの姿勢で盛んに愛想を振りまく河野外相の姿であった。欧米や韓国のニュースでも、同じ映像が流れていた。背後では、北による日本人拉致が懸案である旨のアナウンスが流れているのである。
どこにも骨のない、気概を欠いた精神……何とも無惨な光景であった。河野氏の満面の笑みを通じ、日本は拉致問題を重視していないというメッセージが世界に向けて発せられてしまった。
……
まだましだったプーチン
江沢民訪朝の前、金正日は特別警戒態勢の中、列車で長期間ロシアを訪問した。至るところでダイヤの乱れや交通渋滞を引き起こし、一般ロシア国民の怒りを買っている。
プーチン・ロシア大統領も金正日を歓迎したが、江沢民・金大中ほどの笑顔と抱擁は見せなかった。
露朝共同宣言を見ても、鉄道連結、電力開発などのプロジェクトを本格化させると謳ってはいるが、「第三者から財源を引き出す手法で進める意向を確認」(第五項)とロシア側から資金を出すつもりはない旨念を押している。
在韓米軍撤退問題についても、「北朝鮮は、在韓米軍の撤退は、朝鮮半島と北東アジアの平和と安全を保障する上で、一刻の猶予も許されない緊急課題であるという立場を表明した。ロシア側は、この立場に理解を表明し、朝鮮半島における平和と安定が非軍事的手段によって保障されることの必要性を強調した」(第八項)と、「支持」や「賛意」ではなく「理解」という一歩距離を置いた外交用語を使い、また北側にも軍事力行使を控えるよう求める表現になっている。
軍需関係の工場を複数金正日に視察させるなど、露朝関係も基本的に怪しげな関係ではあるが、一方的に北に利益を与える金大中の太陽政策などに比べればはるかにビジネスライクな要素が強く、その分、害は少ないといえる。
……
不戦を誓うな
日朝交渉も、コメをただ取りされたまま中断して久しい。なかなか日本から「補償金」が取れないことに苛立ちをつのらせているらしい北朝鮮当局は、「過去の清算問題に対する日本の表裏異なる二重の態度を、わが軍隊と人民は極めて不快に思っており、日本とは、会談の方法によってではなく物理的選択によって過去の問題に決着をつけるべきだと主張している(ピョンヤン放送、2000年10月29日)」と、暗に武力侵攻・略奪をほのめかすような発言を繰り返している。
小泉首相は靖国参拝に関連し、「二度と(ああいう)戦争を起こしてはならない」との強い思いから、犠牲者に対し心から「哀悼の誠を捧げてきた」と記者団を前に語った。
小泉氏は土井たか子氏や辻元清美氏ではないから、捧げたのはもちろん「不戦の誓い」といったものではない。闘うべき時には闘うという姿勢がなければ侵略者を抑止できず、われわれの安全を守ることはできないという常識は、小泉首相にしっかり備わっているはずだ。
であるなら、「自衛隊の最高の指揮監督権を有する」内閣総理大臣として、いたずらに犠牲を生む泥沼の戦争にはまり込むことを戒めると同時に、「ならず者国家」に好き放題を許すような行動マヒ、軟弱さをも戒める姿勢がもっと前面に打ち出されてしかるべきであろう。
特攻隊員の「無念」を涙ながらに語るだけでは充分ではない。日本から拉致されたまま放置されている人々や軍の出動が遅れたため犠牲になった人々の無念にも思いを馳せる必要がある。
小泉氏は、他の政治家に比べ情熱ゆたかな人だと思うが、北朝鮮認識などは相当甘いようだ。
日本人拉致は、すでにはっきり侵略行為である。日本が仮に北朝鮮に宣戦布告しても、世界の常識に照らし何らおかしくない、そのぐらいの重大事案である。
かつて、米軍兵士行きつけのベルリンのディスコをリビアの工作員が爆破した際、レーガン大統領は、独裁者カダフィの官邸に対して深夜の爆撃を命じた。
首相が軍の最高指揮官という意識をはっきり持ち、集団的自衛権の政府見解修正、有事法制の整備、日米両軍の共同作戦体制強化などを通じて防衛力、反撃力(すなわち抑止力)を早急に高めなければ、この先さらに本格的な侵略を招くことになるだろう。
……